６５８．うさぎ（はるみち）
「……うさぎ」 「え？」 「って。呼んでるんだな」 「何？」 「あの子のこと」 「ええ」 「……君が、呼び捨て、ね」 「貴女のことだって呼び捨てていてよ？」 「初めはさん付けだっただろ」 「もう」 「何だよ」 「うさぎに言われたのよ。そう呼んでくださいって。最初は私だって、月野さんて呼んだわ」 「へぇ」 「だから、安心して？」 「何が？」 「……自覚、ないの？」 「そういえば、エルザ・グレイのことも呼び捨てていたな」 「彼女は……親友ですもの」 「親友、ね」 「貴女は大切なパートナーよ」 「そう」 「はるか」 「何？」 「はるか」 「……だから、何だよ」 「はるか……」 「みちる？」 「ねぇ。勝手だと思うかもしれないけれど」 「？」 「貴女は、あの子のこと、呼び捨てにはしないで」 「――え？」 「お願い」 「……ああ」 「それから。エルザのことも」 「……大丈夫だよ。アイツに会うことは、たぶん、もうないだろうから」 「ねぇ、はるか」 「ん？」 「私を、呼んで？」 「何？」 「お願い」 「……みちる」 「はるか」 「……何、笑ってるんだよ」 「何でもないわ」 「何でもないわけないだろ」 「そうね。何でもないわけはないわね」 「じゃあ何なんだよ」 「秘密よ」 「…………」 「…………」 「……ったく」
(2010/07/01)