667.一縷の望み(蔵飛)
「どうした?」
「最近の妖怪は人間から逃げ隠れしなくなったなと思いまして」
「お前や霊界の奴等が働きかけた結果だろう。望んだことだ。何故溜息をつく?」
「オレは未だに自分の正体を明かせない」
「それは事情が違うだろう」
「そうかな」
「俺が雪菜に兄だと明かせないのと同じことだ」
「君のは意地でしょう? 知ってもお互い不倖になるわけじゃない」
「…………」
「でもオレは違う。知れば、母さんはきっと絶望する。そして、オレを怖がる」
「嫌なのか?」
「あの人には幸せでいて欲しい」
「記憶を消せばいいだろう? お前の得意技だ」
「得意ってわけじゃ」
「ふん。分かっているくせに、どうしてはぐらかす?」
「え?」
「貴様が幸せにしたいのは貴様自身だ。自己満足したいだけだ。違うか?」
「それは」
「違うと言うのなら、母親の記憶を消せばいいだけだ」
「今は、仕事が気に入ってる。今の生活も。オレはまだ人間として生きていたい」
「アイツの息子としての間違いだろう」
「飛影」
「お前が既に答えの出ていることに悩んでいるのが悪い」
「何?」
「お前は一生母親に正体を明かさない。そう決めている。それなのに何故揺らぐ? 本来の姿で生きている妖怪たちが羨ましいか? 違うだろう。だったら何を羨む必要がある? それとも、一縷の望みでもかけているのか? もしかしたら母親がお前の本当の姿を知っても――」
「飛影!」
「怒るか?」
「……いえ。そうですね。ええ。あなたのいう通りです。どうしても、あの人の優しさを思うと赦してもらえるんじゃないかと思ってしまうんです」
「お前の決意はその程度のものか」
「オレは、あなたほど強くはないんですから」
「開き直るか。図々しさはあるんだな」
「伊達に長生きはしていませんから。……ねぇ、飛影」
「なんだ?」
「また、叱ってくれますか?」
「は?」
「オレが揺らいだら」
「断る」
「それじゃあ、こうしてオレの前に現れてくれるだけでいいです。そうしたらオレ、あなたのことだけを考えますから」
「考えられてないだろう」
「大丈夫。こうして触れていれば。ね?」
「……ふん」
(2012/04/30)
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