676.心の奥(不二塚)
 本当に不二を愛しているのか。実際のところ、分からない。
 愛されているとは思っている。重すぎるほどのそれは体にも心にも深く感じている。オレを見つめる蒼い目はいつだって真っ直ぐで。
「手塚? どうしたの、ぼうっとして」
 問題を解く手を止めたオレを覗き込んでくるその目を、見つめていると唇が触れた。
「お前。ここが何処だか分かっているのか?」
「何が?」
「幾ら放課後で誰もいないとはいえ、教室でこんな……」
 言っているそばから、また。今度は触れるだけではなく、もっと深く、舌を絡ませあってから離れた。
「ったく」
 僅かに上がった息を誤魔化すために、深い溜息を吐く。だが、不二は相変わらず、惚けた表情でオレを見ていた。
「そういうことをしたいなら、帰ってからにしろ」
「君の部屋なら、幾らでもしていいんだ?」
「誰がそんなことを言った」
「でも」
 言いかけた言葉が唇で塞がれる。塞がれる? 誰の、言葉が?
「無意識、なのかな。さっきから、キスをしているのは君のほうだよ」
 不二の手が、シャーペンを握ったままのオレの手に触れる。一瞬だけ落とした視線を戻すと、視界が暗くなった。
「今のが、今日はじめての、僕からのキス」
 不二の手が滑らかに動き、絡まる。軽い音を立ててシャーペンが落ちたが、視線を外すことは許されなかった。いや、許さなかったのは、オレのほう、か……?
「不二」
「君が、何を思い悩んでるのかは知らないけど。僕が思っている以上に、いや、もしかしたら君が思っている以上に。君の中は僕でいっぱいなのかもしれないね」
 痛いくらいに強く手を握りしめ、キスを交わす。それがどちらからのものだったのかなど、最早どうでもいい。
「……帰るぞ」
「え?」
 不二の返事を待たず、参考書を片付け始める。オレが機嫌を損ねたと勘違いし慌てて帰り支度をする不二に微笑うと、解いた手を再び繋ぎなおした。
「さっきオレが言ったこと、覚えてないのか?」
(2011/01/23)
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