682.行き先不明(蔵飛)
 蔵馬が、失踪した。
 どうやら魔界に行ったらしい。
 俺を探すためと周囲には言っていたようだが、俺は知らない。大体、わざわざ魔界に来なくとも、俺から蔵馬には会いに行っていた。
 ならば、アイツは何処に?
 手がかりになるものは無いかと、薔薇の匂いの微かに残る部屋で思考を巡らせる。だが、思い出すのはただ一つの会話。
 ――ねぇ、飛影。獣って、死期が近づくと群れから離れて一人で死ぬらしいですよ。自分の最期の姿は誰にも見せない。どうしてでしょうね?
 どうしてなど。そんなことは元々獣であったお前のほうが俺よりも分かっているだろう。死という言葉を口にしたことに苛立ちながら返すと、蔵馬は、曖昧に微笑んでは俺の手をとった。
 手の甲に唇を落とし、愛してると微笑う。唇は腕を遡り、やがて俺の唇まで辿り着く。それ以上の会話はなく、俺達は獣のように一心に交わった。
 思い出し、体の奥が熱くなる。それは、欲情したからなのか、それとも、頭を過ぎるつまらない不安のせいなのか。
「ちっ。世話の焼けるやつだ」
 呟いて、立ち上がる。部屋を後にしようと窓枠に足をかけたとき、土足のまま上がりこんでいたことに気付いた俺は、無意識に胸元の泪涙石を押さえていた。
(2010/07/13)
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