683.お引越し(蔵飛)
「……やけに静かだな」
「蝉、鳴いてますけど?」
「そうじゃない。……この家の中が、だ」
「ああ。そうですね。今は、というか、これからはもう、ずっと。オレ1人しか居ませんから」
「……何?」
「引っ越したんですよ。義父さんのところに」
「お前はいいのか?」
「オレはもう、独り立ちする年齢ですから」
「だったら」
「人間として、ですけどね」
「…………」
「この家は、というか、庭にあるあの桜を。手放したくなかったんですよ。幸いこの家は父の保険でローン返済終わっているので」
「……ローン?」
「まぁ、この家は完全にオレのものだってことですよ」
「前は違ったのか?」
「いいから。その話は、もう」
「…………」
「ねぇ、飛影。そんなわけで、この家、オレ1人しかいないんですよ」
「それはもう聞いた」
「だからもう、時間を気にして声を抑えたりしなくていいんです」
「……何が言いたい?」
「別に。……ああ。そうだ」
「何だ?」
「合鍵、渡しますよ。もう、窓から入ってくる必要もなくなりましたから。ね?」
「……そんなもの、必要ない」
「えっ?」
「どうしてお前が居ないのに、俺がここに来なければならないんだ?」
「……ああ。そうか。それも、そうでしたね」
(2010/07/25)
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