685.メリット・デメリット(蔵飛)
 こいつの、部屋に通うのは。温かい飯と、毛布。それと、適度な快楽があるからだ。それ以上も、以下もない。
「飛影。もう一回、いいでしょう?」
 だから、過度の快楽は俺には必要ない。
「断る」
 肌に唇を寄せてくる蔵馬を押し退け、枕に顔を埋める。うつ伏せでは眠れないことを知っているはずだが、こうすると蔵馬は深追いしてこなかった。
 溜息を吐いてベッドから降りる蔵馬の音を聴きながら、考える。じゃあ、コイツが俺と一緒にいるメリットはなんなのか。
 自分の望むままに快楽を貪ることもせず、ふらりとやってくる俺に食事と寝床を与え。恐らく、俺が寝入った後で溜まっている仕事とやらをこなすのだろう。
 何度考えてみても、蔵馬にとって俺といることはデメリットにしかないように思える。それを知ったからといって、こいつを気遣ってここに来るのをやめるほど俺はお人よしではないが。
「……蔵馬」
「何。気が変わった?」
「どうして、俺といる?」
「……あなたがオレの所に来てるんでしょう」
 クスクスと笑いながら返し、俺の髪をくしゃりと撫でる。
 だったら、俺が来なければ。お前は俺といることはないというのか。訊こうとして顔を上げると、蔵馬は何故か哀しげに微笑っていた。何も言うことが出来なくなった俺から手を離し、立ち上がる。
「オレには、自分からあなたを求める資格はないですから。……でも、来てくれて凄く嬉しいんですよ」
 背を向けたままだから、蔵馬がどんな顔をしているのかは分からない。だが、何故か蔵馬の言葉に安心している自分がいて。静かに締められた扉を眺めながら、馬鹿馬鹿しい、と吐き出した。
 蔵馬にどんなメリットがあろうと、例えデメリットしかなかろうと、俺には関係ない。俺は、俺のために蔵馬を利用する。それだけだ。
 仰向けになると、最早見慣れてしまった天井がそこにはあり。
「馬鹿馬鹿しい」
 今度は声に出して呟くと、俺は静かに目を閉じた。
(2010/11/16)
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