686.爪の先に灯す(不二塚)
「最近、そればかりだな」
「何?」
「デジタルカメラ」
「ああ。うん。そうだね」
「フィルムカメラの方が現像してみないと仕上がりが分からないから、楽しいと言っていなかったか?」
「うん。まぁ、そうなんだけど、ね」
「……不二?」
「まいったなぁ。手塚って、そんなに僕のこと好きだったっけ?」
「は?」
「こんなこと、君が気づくなんて思ってなかったから。ちょっと、びっくりした」
「なんだ、それは」
「実は、ね。今、お金を貯めてるんだ。だから切り詰められるところは切り詰めようと思って」
「だがそれはお前の」
「うん。まぁ、テニスよりも夢中になりそうなくらいの趣味ではあるんだけどさ。なんていうか、ね」
「なんだ?」
「それよりも、大切なことがあるんだよ」
「…………」
「気になる?」
「ような言い方をわざとしているんだろう?」
「うん」
「だったら教えろ」
「教えない」
「……そうか」
「あれ?」
「どうした?」
「分かったよ、僕の負け。というか、君にカメラのこと気づかれた時点で負けてるんだけど」
「オレは別に勝負をしていたつもりはないが」
「知ってる。僕が勝手に賭けてただけ。君が、僕の変化に少しでも気づいたら、白状するって」
「白状?」
「お金を貯めてるってこと。と、その理由」
「オレがそれに興味を持たなくてもか?」
「興味ないの?」
「予想は出来ているからな」
「答え合わせをする気はない?」
「オレがドイツに行けば分かる話だ」
「……ねぇ。どうしてそんな予想したの?」
「それだけ、不二はオレのことを好きなんだろう?」
「そうだけど。でも。ねぇ。手塚も、そうして欲しいって、願望があったんじゃない?」
「…………」
「やっぱり、電話やメールだけじゃ、淋しいよね。九州っていうだけでも淋しかったんだから、ましてやドイツなんてさ」
「けど、分かっているのか? どれだけの費用が必要なのか」
「大丈夫。僕んち、夏には毎年海外に行ってるでしょう? その分も少し貰うから」
「じゃあ不二は何処にも行かないのか?」
「君の所に行く」
「家族と」
「まぁ、そうなるね」
「それは……」
「いいんだよ。一回くらい。一回、だよね?」
「…………」
「こういう時くらい、嘘、吐いてよ」
「すまん」
「まぁいいや。高校に入ればバイトも出来るから」
「不二」
「言っとくけど。別れるつもりはないからね。例え君が向こうで浮気しても。僕がこっちで浮気しても」
「浮気、するのか?」
「淋しいから、しちゃうかもしれない。でも、浮気だから」
「オレがそれを許すと思うか?」
「ううん」
「じゃあ」
「だったら」
「?」
「僕に浮気されないように、努力して」
「なっ……」
「努力。して」
「……わがまま」
「うん」
(2012/02/19)
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