702.目は口ほどに(蔵飛)
「飛影。いい?」
「っ」
 問いかけに、彼は何も言わず顔を背けた。仕方がないから体に聞こうと、深く内部を抉ると、薄く開いた口から短いけれど熱い喘ぎが漏れた。
 目は口ほどにものをいう、とは言うけれど、こうして目を瞑られていたら何も読み取れない。無理矢理開かせることも難しい。
 それに比べ口は、固く閉じようとしていてもこうして刺激を与えれば、素直に答えてくれる。キスで塞いでも、同じだ。
 だからと言って、それで満足できるのかといわれれば、そうじゃない。なんて。これはオレの我侭なんだろうか?
 そもそも、この行為を受け入れてる時点で、彼の気持ちなんて分かってるのに。
「飛影。オレを見て」
 顎を掴み、他所を向いている顔をオレへと向ける。それでもまだ開こうとしないその目に唇をよせ、軽く歯を立てた。
 僅かに、彼の体が強張る。心配しなくても、食べたりなんかしないのに。思わず笑うと、ようやく彼の目が開いた。
「好きだよ」
「聞き飽きた」
「オレは、言い飽きてないから」
 くだらない、とでも言うように、彼がオレを睨みつける。
「ねぇ。飛影はオレのこと、好き?」
「聞き飽きたと言っている」
「けどオレは、聞き飽きてないから」
 聞き飽きてない。少し、言い飽きてはいるけど。彼から答えを貰うことは殆どないから。聞き飽きることは無い。
 オレの知りたいことを、その小さな口は教えてくれるけれど。それはオレの欲しい言葉とは明らかに違う。
「……オレが聞き飽きたら、もう、言わないよ」
 微笑みを消し、真っ直ぐに彼を見つめる。真剣なオレに、僅かに彼の目は揺らいだけれど、そんなことでオレは許しはしない。
 本当に欲しいものは、その目でも温もりでもない。不器用な彼の、たった一言。それがオレと同じ重さでなくても、嘘であっても構わない。
「本当だな?」
「オレが聞き飽きるほど、言ってくれればの話ですよ?」
「……好きだ」
「飛影?」
「俺は。お前が、好きだ」
 目をそらしながら、それでも真っ直ぐな言葉はオレにしっかりと届いた。
 本当に。目は口ほどにと言うけれど、彼の言葉はそれ以上だ。
「……これくらいで、飽きただろう?」
「ええ。今日の所は」
「きっさま」
 クスクスと笑いながら言うオレに、一瞬にして耳まで赤く染めた彼が睨みつける。けれど。
「っあ」
 偽りの罵声が飛んでくるよりも先に、オレは再び彼の体を打ちつけた。その口から、もう、本音しか漏れてこないように。
(2010/07/05)
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