710.美味しい毒(雷禅×女) |
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「来い」 まるで抱くのが自分であるとでも言うように、女は着物を肌蹴て俺を呼んだ。その仕草は、王としての俺のプライドを容易く打ち砕く。 手招きに応じるように女の腕の中に滑りこみ、口付けを交わす。唾液を交える瞬間、これで俺は死ぬかもしれないという思いが頭を過ぎったが、女が喉の奥で笑ったような気がし、俺は激しく舌を絡めた。 爪の先で露わになった女の足をなぞる。伝わってくる振動は、箇所にも寄るが、人間の肌というよりも鱗を持った生き物をなぞったときの感覚に近い。それでも、掌をあてがって伝わってくる温もりは間違いなく人間のものであり、埋めた首筋から香る匂いも今にも食らいつきたくなるような人間のそれだった。 「はっ……」 胸の先を摘み上げると、女が眉を寄せて息を詰める。あんな肌をしているから鈍いだろうと思っていたが、予想を越えた反応に、今度は俺が息を詰めた。 「どうした、この毒だらけの体に、今更怖気づいたか?」 俺の項を掴んでいた手を離し、僅かに浮いていた背を薄汚れた布団へとつける。体からは力が抜けているのに、その目は強く、真っ直ぐに俺を見つめていた。 体の芯が、いいや、それよりももっと深い部分が、熱くなっていく。 欲しい。この女が。 それは女を口説き落とす前よりも強い感情。もう、このまま手を伸ばせば手に入れることが出来るというのに、それでも俺は女を欲っしている。 これは、早くも女の毒にあてられたのか? 「お前の様な美味い毒を食って死ねるのなら、それも悪くねぇな」 「人間ごときに殺されるか?」 「人間に殺されるわけじゃねぇよ。お前にだから殺されるんだ」 「……戯言をっ」 放っておけば冷たい言葉を吐くその口を、再び塞ぐ。言葉は冷たかったが、口の端から零れる息は熱い。 欲しい。もっと。もっとだ。 はやる気持ちを押さえつけながら、味わうように体を弄る。指先が、舌が、女の体を知るほどに、欲望は満たされるどころか募っていく。 これは中毒症状の一種なのかもしれないな。 聴こえてくる女の声に聴覚を、その悶える顔に視覚を、触れる肌からはその他総ての感覚を奪われながら。俺は長い夜が明けてもなお、女の体を貪り続けた。 |
(2010/09/04) |
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