712.嗚呼(蔵飛)
 いつもは口うるさい蔵馬から言葉が消える。聴こえてくるのは、薄く開いた口から漏れる吐息ほど。
 こういう日は、ろくなことがない。
 長らく人間界を訪れていなかった俺が悪いのだといわれれば、それまでなのかもしれないが。
 何度絶頂を迎えても、いつまでも纏わりついてくる。下等な妖怪のような性交。開きっぱなしの俺の口からは、もう掠れた呻きすら出てこない。
 俺の上で動く、恍惚とした表情。いつもなら、決して嫌いじゃないものなのだが。焦点の合わないその目は、苛立ちを煽るだけだ。
「蔵馬……」
 音にならない声で、名を呼ぶ。視線を取り戻したくて、何とか持ち上げた両手で蔵馬の顔を掴む。それでようやく、蔵馬は俺を見た。
 どれだけ滅茶苦茶にされても構わない。そんな風に、今この瞬間なら思うことが出来る。それなのに。 「飛影」
 俺の名を呟き口元を釣り上げて笑うと、蔵馬はまた俺以外の何かを見はじめた。
 くそ。
 歯軋りすら拒むほどの激しい動きに、開いた口からもう出ないと思っていた喘ぎが漏れる。
 快楽だけを欲しがるなら充分なはずなのに。それだけでは充たされない想いに、自分の感情を呪いながら――。
(2011/01/04)
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