721.模様替え(不二塚)
「……手塚、部屋、模様替えした?」
 部屋に入るなり、不二は言った。オレの部屋を真剣な表情で見回す。
「でも、家具の配置が換わってるわけじゃないんだね。なんていうか、こう、片付いてるっていうか」
 鋭いな。不二の様子を視界の端で気にしながらも、なんでもないような表情でテーブルに参考書を広げる。
「もしかして、浮気?」
 憮然とした表情が、オレの顔を覗きこんでくる。まさか。呟いた口を、不二が柔らかく塞ぐ。
「そんなことしたら、許さないからね?」
 青い眼をゆっくりと細め、オレの正面の位置に座る。口調は柔らかなのに、冷たさを感じさせる声。落ち着け。内心で呟くと、オレは不二を真っ直ぐに見つめ返した。
「分かっている。……だが、オレがそこまで器用ではないことくらい知っているだろう?」
「そう、だね。そうだった。だから僕は、君が好きなんだ」
 頷く不二の声から、冷たさが無くなる。だが、オレの中にある後ろめたさは反比例して強くなり、思わず目をそらした。不二の口から、溜息が零れる。
「勉強、はじめようか。夏の後は、きっとあっという間に冬だよ」
 ページをめくる音に、顔を上げる。参考書に目を落としていると思った不二は、オレと目を合わせると少し淋しげに笑った。
 すまない、不二。オレは。冬まで一緒にはいれない。秋すらも……。
 問題を探すフリをして参考書のページをめくる。不二は何も言わずオレを見つめていたようだったが、再び短い溜息を吐くと細い指でシャーペンを握りしめた。
(2010/11/26)
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