731.数珠つなぎ(蔵飛)
「飛影の涙は、泪涙石になるのかな?」
 身じろぎできないほどに強く両手をベッドに押し付けて、蔵馬は言った。聞き返すよりも早く腰が抉るように動き、頭の中が白くなる。
「どうしたら泣いてくれる?」
「一儲けしたいのか?」
「あなたが持っているようなものを、オレも欲しいだけです」
 俺の視界から一度消え、再び現れた蔵馬は、その口に俺の泪涙石を咥えていた。お前の嫌いなムクロの腹の中に入っていたものだぞ、と口をついて出そうになったが、それは行為の最中も身につけている自分にも言えることだと何とか飲み込んだ。かわりにと言うわけではないが、栓の抜けたそこから蔵馬の吐き出したものが溢れてくる。
「沢山泣かせて、数珠繋ぎにして。ねぇ、そうしたら、オレの葬式でそれを身につけて来てくださいね」
「……くだらん」
「そう?」
「俺は泣かない。泣いたとしても、泪涙石になどならん。だからそんな想像はするだけ無意味だ」
 イライラする。充たされたばかりだというのに。理由は分かりきっている。コイツが、終わりの話などするからだ。
「泪涙石にならなくてもいいから、あなたの涙は見てみたいな。理由は、何でもいいから……」
「だったら痛みで、泣かせてみろ」
「え?」
「泣かせてみろ」
 自由になった手で、蔵馬のうなじを掴む。挑発的な目を向けると、蔵馬はようやく口元を吊り上げて微笑んだ。
「後悔しても、知りませんよ?」
「誰が」
 呟いて、蔵馬の唇に噛みつく。自由に泣くことの出来ない自分を、初めて恨めしく思った。同時に、蔵馬が考えている理由でだけは、絶対に泣くまいとも強く思った。
(2011/02/19)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送