732.里心(はるみち)
「月を見ると、懐かしく感じるのは何故だろうな」
「そんなの。私たちの前世が」
「僕たちは、月で暮らしていたわけじゃない。だろ」
「ええ」
「でも、何故か懐かしく感じる。そう、あの頃も、そんな風に想ってた」
「覚えて、いるの?」
「どうしてだろう。そういう感情だけは覚えてるんだ。……僕以上に記憶を持っている君なら、尚更なんじゃないのか?」
「私は……。そうね。私も、懐かしく想うわ。悔しいけれど」
「悔しい?」
「ネプチューンは、あの月を憎んでいたはずなのに」
「憎んで……」
「でも。ねぇ、はるか」
「何?」
「覚えていて。月を見て懐かしく感じるのは確かだわ。でも、私が帰るべき場所は貴女なの」
「……何、言ってるんだよ。それをいうなら天王星(ボク)じゃなく、海王星だろ?」
「ネプチューンの話をしているんじゃないわ。海王みちるの話をしているの」
「それこそ、君には実家が」
「貴女だって、そうでしょう?」
「……僕の家と君の所は違うさ」
「それでも。私は貴女に帰りたい」
「……だからって、僕を懐かしまないでくれよ」
「えっ?」
「里心がつくほどに離れる気はないぜ、僕は」
「……ええ。そうね。あの月は、どんなに手を伸ばしても届かないけれど。貴女には、こうして触れられるんだもの」
(2011/07/13)
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