738.お墨付き(蔵飛)
「鑑定士になれってさ」
「何だ?」
「海藤。覚えてますか? あなたの魂を取った男」
「……ああ」
「彼が。この間、オレの所に来たんですよ。彼の頭脳を頼って宝石の鑑定を依頼されたんだけど、幾ら知識を身につけてもどうも自分は目利きに向いていないようだと」
「それで鑑定したのか?」
「ええ。これでも、元盗賊ですから」
「ふん」
「で。鑑定士になれと言われたんですけど」
「……何をにやけているんだ?」
「いや。それも悪くないかなって」
「次期社長が何を言っている」
「勿論、父の会社は継ぎますよ。そうじゃなくて。魔界で、ですよ」
「……どういう意味だ?」
「あなたといずれ魔界に行って。ただダラダラと過ごしたって仕方がないでしょう?」
「だったら薬屋にでもなればいいだろう」
「ああ、そういえば、そうですね」
「いや、そうじゃない」
「なんですか?」
「蔵馬。貴様、俺と魔界に行く気なのか?」
「いずれは、ですよ。もしオレが、妖怪としての寿命をまっとう出来るのであれば」
「……ふん。馬鹿馬鹿しい」
「なんですか。夢くらい持たせてくださいよ」
「魔界に行ってまで職を持っているのでは、人間界にいるのと何も変わらないだろう」
「じゃああなたはどうして魔界で暮らしたがっているのですか?」
「…………」
「ねぇ、飛影。人間界にいるのと何も変わらないのであれば、人間界にいてもいいんじゃないですか? ずっととは言いませんから。気が向いたときに人間界に来るんじゃなく、気が向いたときに魔界に行くような感じで」
「……人間界と魔界での生活で何も変わらないのは、お前だけだ。俺は」
「あなただって。ムクロのところかオレのところかの違いだけで、それ以外の生活に変わりはないでしょう?」
「人間界(ここ)では戦えん」
「だから。ウサ晴らしをしたくなたら、魔界に行けばいいですから」
「貴様。鑑定士の話はどうした。夢にするんだろう?」
「あなたが人間界でもっとオレと一緒にいてくれるのなら、オレはそれ以上望むものなんてありませんから」
「……ちっ」
(2012/02/10)
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