741.ごちそうさま(はるみち)
 ごちそうさま。唇を離すと、はるかは私の顔を覗きこんで微笑んだ。
 キスの感触よりも、その笑顔に赤くなった顔を隠したくて、はるかの額を押しやる。
「行儀が悪いわ」
 渋々、といった様子で椅子に腰を下ろしたはるかは、そうかな、と私の呟きに首をかしげた。
「ちゃんと、ごちそうさまっていったろ」
「でも、食事の席で」
「それとも、いただきますって言ってから、キスして欲しかった?」
 でもそれじゃあ不意打ちにならないしな。そう言って、残ったパンを口の中に頬張るはるかに、もう、と頬を膨らます。
「今度は本当に、ごちそうさまでした」
 ふぅ、と小さく息をつき、自分の食器を重ねて立ち上がる。追いかけようと、慌ててパンを手にした私に、はるかは、大丈夫だよ、と微笑った。
「みちるはゆっくり食べてて。僕はその間、次の食事のための休憩を取っておくから」
「次の、食事?」
「そう。今度はちゃんと、いただきますって言ってから食べることにするから」
 言い残してキッチンに食器を運んだはるかが、水音を立てる。それに隠れるようにして、私は、バカ、と小さく呟いた。
(2010/09/02)
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