751.スパイスを効かせる(はるみち)
 唇を、噛み切られた。
「怒ってるのか?」
「怒られるようなこと、したの?」
「……してない」
「それなら、怒れないわね」
 悪戯っぽくながら、再び唇を重ねてくる。
 また痛みがやってくるかもしれないと少し身構えたが、反して彼女は甘いものだけをくれた。味は、甘さとは違う、鉄臭いものになったけれど。
「どう?」
 気が付くと組み敷かれた体。意味深に訊く彼女に、意味が分からず。視線で訴える。
 溜息が、薄く開いた口から僕の首筋へと零れる。
「いつも、はるかは甘いから。たまにはスパイスを効かせようと思ったの。その方が、甘さも際立つでしょう?」
「……で。甘さは際立ったのかな?」
 体を入れ替え、今度は僕から唇を貪る。無論、傷なんてつけない。
「分からないわ。だって、これからですもの。……でしょう?」
「それもそうだな」
 笑いあい、強く抱きしめる。
 これでもし、本当に。今まで以上に甘くなるのだとしたら。
「胸焼け、するかしら?」
「僕は甘党だからね」
 あの程度の痛みなら、僕は甘んじて受けようと――。
(2010/12/20)
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