772.そこに映るものの正体は(不二塚)
「そんなところで何をしている?」
「手塚……」
「腹の調子でも悪いのか?」
「ふざけてる?」
「それはお前だろう。トイレの鏡をじっと見つめて。ナルシストにでもなったか?」
「……ねぇ、手塚。君に見えている僕と、僕が見ている僕は、きっと別人なんだ」
「知っている。だから何だというんだ」
「……本当の僕を知ったら、きっと」
「お前は、オレに嫌われたいのか?」
「え?」
「そういうことだろう」
「そうじゃない。でも」
「だったら、それで構わないだろう。オレはお前を嫌いたくない」
「それが真実の僕じゃなかったとしても?」
「お前の見ているお前が、本当の不二周助だとも限らないだろう? オレは、オレの目に見える世界を信じている」
「……我侭かもしれないけど。それでも僕は本当の僕を、僕の知っている僕を、君に見て欲しいと思うよ」
「その上で、嫌いになるなと?」
「嫌ったら嫌ったで、しょうがないと思うけど。そうだね。出来れば。その上で、好きだって言って欲しいかな」
「勝算は?」
「ゼロに近い」
「それなら、辞退しよう」
「君に自信は?」
「自信も何も、オレは今のお前に満足している」
「この先、僕が本性を見せても?」
「見ないことには分からない。それがオレにとって幸なのか不幸なのかは。なんなら、今ここで試しに見せてみるか?」
「……考えてみると、君の目に僕がどう映ってるのか、僕は知らないんだよね」
「ああ」
「だから、もしかしたら君は僕の本性の一部を既に見ているかもしれない」
「そうだな」
「……分かった。降参。戻るよ。棄権負けなんて、みっともないからね」
「棄権じゃなくても」
「え?」
「本気を出さないうちに負けるのは、みっともないぞ」
「……プレッシャーだなぁ。相手はあの白石くんだよ?」
「そう思うなら、初めから本気を出せ。本性と言っても構わないが」
「なんだか、意地が悪いね、今日の手塚は」
「こんなオレは嫌いか?」
「悪くないよ。たまになら、ね。」
(2011/01/09)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送