775.後ろを見るな(蔵飛)
 気持ちを静めるために深呼吸を繰り返していると、伸びてきた両手に顔を挟まれた。焦点を合わせるよりも早く、呼吸を乱すような荒いキスをされる。
「後ろを見るな」
「後ろなんて」
 見ていない、と言い返そうとした口を再び彼が塞ぐ。繋がったままの体は、まるで続きを促すように、腰に足を絡ませてきた。
 誘惑する腰の動きに、オレも自然と動き出す。
「飛影」
「俺とこうしている時は、過去を振り返るな。未来を予測するな。……今、目の前にいる俺のことだけを考えろ」
 体位を変えたオレの上で小さな体を大きく揺らし、快楽に背を仰け反らせたくなるのを堪えながら、真っ直ぐに見つめてくる。
 その目は快楽よりも怒りよりも、哀しみに満ちていて。
「……分かったよ、飛影」
 荒れはじめた呼吸で答えると、オレは過去の罪悪も未来の不安も振り切るために、更に深く彼を抉った。
(2010/09/05)
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