777.吸血鬼(不二塚)
「お前。また、やったのか」
「手塚」
 来るの早いよ。青い顔で微笑う不二の腕を掴むと、持っていたハンカチで流れ出てくる色を拭き取った。それだけでは無論止まるはずもなく、再び溢れてくるそれを舌で舐めとる。
 不二は何も言わなかったが、笑みの中に苦みを見せた。
「あんまり飲むと、胃にくるよ。人間は、血液を飲むようには出来てないんだから」
「だったらこんなもの飲ませるな」
 強く吸い上げてから、唇を離す。それでもまだ滲む傷口を、ハンカチで縛る。締め付けが強かったのか、不二が顔を歪めたが、それ以上の痛みを自らその腕に与えているはずであり、自業自得だ、と呟いて、オレは仕上げとばかりにもう一度強く結んだ。
「血、止まっちゃうよ」
「息の根を止めようとした奴が、よく言う」
「大丈夫。これくらいじゃ死なない」
「当たり前だ」
 呟いて、眼鏡を直すと、自分の腕に不二の血がこびり付いていることに気付いた。親指でこすっても落ちないそれを、唾液で融かし、飲み下す。
「吸血鬼、みたいだね」
「バカを言うな。誰が好き好んで」
「そうだよね。手塚が好きなのはこっちだ」
 オレの言葉を遮り言うと、不二は青く変色しかけている手でオレの顎を掴んだ。次に何をされるのか、予測する間もなく、唇が重なる。
 いや、予測出来たからといって、どうこうする気もないが。
「鉄臭い」
「元はお前のものだろう」
「今は君の味だよ」
 青い眼を細め、声を出さずに笑うと、不二はオレの肩を掴んでベッドに座らせた。啄ばむようなキスを繰り返しながら、上体を倒していく。
「でも、こうして取り入れるのは。なんか違う気がするな」
 オレの手を掴み、指を食む。薄っすらと浮かんだ笑みに寒気を感じると同時に、指先に熱が走った。遅れて、痛みがやってくる。
「不二。何を」
 指先から血が滲み出す。それを確認すると、不二は自分の腕に巻かれたハンカチを取った。親指で傷口をなぞり、死に掛けていた色を呼び戻す。
「こうした方が」
 オレの指を開いた傷口に押し付ける。溢れ出る二人の血を混ぜ合わせると、不二はオレの手を解放した。
「取り込んでいるっていう気になるかな」
「バカが」
「うん」
 血が伝う腕を掲げ、頷きながらも満足そうな笑みを浮かべる。そんな不二に舌打ちをすると、下半身へと手を伸ばした。驚く不二に、今度はオレが笑みを見せる。
「オレは。これで充分お前を取り込んだ気になれる」
 だからお前の血は必要ない。誘うように囁いてみせると、不二は、ずるいなぁ、と溜息をつき、それからゆっくりと体を重ねてきた。
(2010/08/13)
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