779.作成目的(はるみち)
 こんなもの、作って。僕はどうしたいのだろう。
 手の中の硬い感触を確かめるように強く握りしめる。冷たかったそれも、いつの間にか僕の体温が乗り移ってしまっている。
 ポケットから出せない右手。気づかれないように彼女の右手に自分の左手を絡ませて歩く。あと10分としないで、彼女のマンションについてしまうというのに。
「はるか。どうかしたの?」
「え?」
「何だか、今日の貴女、変よ」
「そう、かな。いつもと変わらないつもりだけど」
「つもり、ね」
 左手を口元にあて、含み笑いを浮かべて僕を見上げる。
 まずったかな。思わずツバを飲み込んだ僕は、あからさまに彼女から目をそらした。
 触れ合っている左手よりも、僕の右手の中のほうが熱い。
 渡せば彼女が喜ぶだろうことは分かってる。でも、その表情に、僕はなんて返せばいいのかが分からない。
「ね、はるか」
「あ、ああ。うん」
「まだ何も言ってないわ」
「ああ」
「迷ってるなら」
「うん?」
「時間なら、幾らでも。ね?」
 時間。時間なんて本当に幾らでもあるのだろうか。過ぎる不安に彼女を見つめると、彼女は相変わらずの笑顔を見せたまま、それでも繋いだ手には力が込められていて。
「そうだな」
 不安を打ち消すように笑顔を作ると、ポケットの中に合鍵を置き去りにして、温まった手で彼女の頬にそっと触れた。
(2011/05/13)
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