788.しのぎを削る(蔵飛)
「馴れ合いより刺激を、か」
 うつ伏せになり文庫のページを見るともなしに捲りながら、蔵馬が言った。なんだと聞くよりも先に、コエンマに、と言葉が続く。
「オレ達の関係を説明する時にそんなことを言ったのですが。最近は馴れ合ってしまってますね」
「不満なのか?」
「体が鈍ってきていましてね」
 文庫をサイドテーブルに置き、体ごと視線を俺に向ける。くだらない。呟く代わりに、俺は天井を見上げた。
「ねぇ」
「刺激なら、絶えずくれてやってるだろ」
 絡み付いてくる腕を解き、歯形をつける。耳元で、蔵馬が小さく声を上げる。
「コレは、痛みですよ。それに、刺激を与えてるのはオレの方」
 でしょう、と今度は足を絡めてくる。言う通り刺激を与えてくるそれから逃れる気は、バカらしくてすぐに失せた。
「あなたのライバルって、幽助なのかな。それともムクロ?」
「俺にライバルなどいない」
「……黒鵺」
 ぽつりと漏らした名前に、瞬間だが体が硬直する。それを見逃すはずも無い蔵馬は、隙を突くように俺を強く抱きしめるとクスクスと癇に障る笑い声を上げた。
「冗談ですよ。第一、死人には勝てない」
「俺は負けたつもりは無い」
「成る程。勝負をしているつもりは、あるんですね」
 もし黒鵺が生きていたら、あなたはもっとオレに甘えてくれたのかな。楽しげな口調。それが気に食わなくて、俺はもう一度蔵馬の腕をとると、強く噛みついた。ゴリと鈍い音がして、口の中に地の味が広がる。
「だから。オレが欲しいのは刺激ですから」
 眉間に皺を寄せながらも口元だけは相変わらず笑っている蔵馬に、知るか、と返す。それから蔵馬の髪を掴むと、少しでも蔵馬の望むものに近づくよう、いつまでもつりあがっている口元に唇を寄せた。
(2011/11/22)
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