789.見えるものと見えないもの(外部ファミリー)
 テレビを見てたら、流星群のニュースが流れてきた。私の髪を撫でてたパパの手が止まったから、嫌な予感がしたけど。思った通り、パパは流星群を観に行こうって言い出した。ママたちも笑顔で賛成してる。
 でも、私はなんか。
「ほたるは乗り気じゃないみたいだね。それとも、眠い?」
「ううん、大丈夫。ほたるね、もう10時くらいまでだったら平気で起きてられるよ」
「平気でも、今はまだ9時には寝ないとな」
 止まってたパパの手がまた動きはじめる。でも私はまだ寝たくなかったから、ソファに寄りかかるのをやめて、姿勢を良くしてパパの顔を見た。
「ねぇ、はるかパパ。どうしてみんな流星群を見たがるの?」
「え?」
「だって、地球から見えるのは珍しいかもしれないけど、現象自体は珍しいことじゃないのに。星の光だって、私たちの目に届く頃には消滅してるかも知れないんだよ?」
 私の言葉に、パパが驚いた表情をする。
 もしかして言っちゃいけないことだったのかな。パパたちの気持ちを台無しにしちゃったかもしれない。
 テレビの音がはっきりと聞こえるような空気に、おそるおそる洗い物をしているママたちを振り返ってみる。キッチンカウンター越しに私を見つめていたママたちは、私が見ていることに気付くと、お互いに目を合わせて苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい」
 ソファに背中をつけて、俯く。パパの手がいつの間にか離れてたことに今になって気付いた。怒ったのかな。気になるけど、怖くて顔を上げられない。
「……だから、星を見るんじゃないかな」
 膝の上でギュッと握りしめてた手に、パパの手が触れる。聴こえた声はとっても優しくて、私は顔を隠してる髪の隙間からパパを見上げてみた。気付いたパパが、私の髪を耳にかけて微笑む。
「流星群だって、消滅してしまった星だって、僕たちが見上げなければ存在自体なかったことにされるかもしれないんだ。それは、ちょっと、淋しすぎるだろ?」
 僕たちが見たからって何かが起こるわけじゃない。それでも、誰にも知られずに死んでいくよりはマシだと思うんだ。
 今、パパの目に映ってるのは、きっと私じゃない。そう思えるような遠い目をして、パパは言った。それが少し淋しかったけど、でも、パパの優しさは痛いほど伝わってきた。
 私たちが覚醒しなかったら、誰にも知られることなく孤独な戦いを続けてきたサターンたちの存在は、無かったことにされてたかもしれない。
「それに、珍しくなくても、綺麗なものは綺麗なんだ。こんな機会に見に行かない手はないだろ」
「そうね。ピークは少し遅い時間だけれど。……ほたる、起きていられるかしら」
 私のためのホットココアを持って、みちるママは向かいのソファに座った。パパにはコーヒー。ありがとう。呟いて受け取ると、みちるママは優しく微笑んだ。せつなママも、遅れてソファに座る。
「どうする? 行かないで寝てるっていうなら、僕たちだけで観に行っちゃうけど」
「行く!」
 パパの声が意地悪だったから冗談だって分かってたけど、反射的に私は叫んだ。そんな私に、ママたちがまた互いに顔を見合わせて、でも今度は苦笑いじゃなく楽しそうに笑った。
(2010/12/19)
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