790.勘違いもいいところ(蔵飛)
「……余り、調子にのるなよ」
 二度もしたにも拘らず、まだもぞもぞと体を動かしている蔵馬に、俺は言った。はいはい、などと言いながらも首筋に噛み付いてきやがるから、その髪を強く引く。
「痛いな。人間の髪は痛みやすいんだ。……知ってるでしょう?」
「知っていたところで、俺には関係ない」
「覗き魔」
「貴様っ」
 声を上げる口を荒々しくふさがれ、舌を絡め取られる。それだけで燻っていた熱は容易く甦り、俺の口からは熱い吐息が漏れた。
 クスクスと蔵馬の笑い声がやけに頭の中で響く。
「ねぇ、飛影。オレのこと、好き?」
「……勘違いも、いい加減にしろ。俺は寝床と食事のためにここにいるんだ」
「今してることは?」
「その礼だ」
 顔を覗きこんでくる蔵馬に、早口で呟くと俺は掴んだ頭を抱き寄せた。その行動が、蔵馬の勘違いを増長させることになるとは分かっていたが、蔵馬の目を見つめる気にはなれなかった。
「嘘吐き」
 案の定、俺の体に舌を這わせた蔵馬が、愉しげに笑う。
 うるさい。そう思ったのも束の間、俺の頭の中は何かを求めることに夢中になっていた。その何かの正体も分からないまま……。
(2010/11/02)
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