798.右も左もわからない(蔵飛)
「飛影。ここにいたんですか」
「何だ?」
「あなたが人間界に来ているという話を聞いたので。探していたんですよ」
「何か用か?」
「用が無ければ会ってはいけませんか?」
「理由もないのに会いに来るような奴ではないだろう?」
「用があるのは、あなたの方ですよ」
「そんなもの、ない」
「案内、必要でしょう?」
「は?」
「人間界のこと。まだ、右も左も分からないでしょう?」
「道など分からなくても、上を跳んでいけばなんとでもなる」
「そういう意味じゃなくて。というか、屋根の上を走るのは止めて下さい」
「何故?」
「怪しい人に思われますよ。タダでさえ、黒ずくめなんですから」
「要は人間に姿が見えなければ良いのだろう?」
「……飛影」
「溜息をつきたいのは俺のほうだ、鬱陶しい」
「じゃあ、あなたは何をしに人間界に来たんですか?」
「何?」
「あなたこそ、理由なく行動しない人でしょう?」
「…………」
「……雪菜ちゃん、ですか。別に、変わりはないですよ。桑原くんと一緒に暮らしているからって別に二人きりなわけじゃないんだし」
「知っている」
「え?」
「お前は。俺が人間界のことを何も知らないと思っているだろうが」
「……何ですか、これ」
「前にお前がやたらと騒いでいただろう。チョコが欲しいと」
「それで、この、板チョコ」
「不満か?」
「まさか。まぁ、欲を言うなら、口移しで食べさせて欲しいかな」
「死ね」
「なんて、ね。……でも、飛影」
「何だ?」
「ちゃんと理由、あったんじゃない。人間界に来る」
「……うるさい。俺はもう帰る」
「オレの部屋に?」
「魔界に、だ」
「ちょっと」
「何だ?」
「折角だから。これ、一緒に食べませんか? 口移しだなんて贅沢は、いいませんから」
「……ふん」
(2011/02/11)
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