826.月に明かす(ウラネプ)
 唇を離した後、いつも優しい微笑みを見せる。だから私は、流されるように彼女の指を受け入れてしまう。
 しなる身体。ベッドに頭を押し付けながら、私を見下ろす彼女の背後にある窓を眺める。
 優しい光だと彼女は言う。でも、今の私にはそうは思えない。
 情事の時必ず私たちを照らし出す青白い光は、まるで『誰か』以外を愛することを責めているかのようで。
「愛してる」
 躊躇うことなく彼女が言う。私は素直に答えられない。だってそうでしょう?
「いけないことだわ」
「どうして」
「だって、私たちはプリンセスを守るために存在しているのよ」
「当たり前だろ」
「それなら」
「それとこれとは別だ。プリンセスを守るために君を殺さなければいけないのなら、僕はきっと君を殺すだろう。それでも君を愛してることに変わりはない」
 第一、イケナイコトだと言われたからって素直に消せるような感情じゃない。だろ。
 真っ直ぐな瞳。私には到底真似できない考え方。でも、と口をついて出て来そうになる言葉を、彼女の唇に吸い取らせる。
 でも……。でも、ウラヌス。貴女はあの月を見ていないから言えるのよ。監視するように視界の片隅に在り続けるあの月を。
「ネプチューン」
「私のコトバは、貴女にしか明かさないわ」
 意味深長に微笑んで口付けをかわす。いつか、あの月の光が届かない所まで辿り着く日を夢見て。
(2011/02/09)
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