834.出番待ち(不二塚)
「……暇」
「先輩方の試合をちゃんと見ていろ」
「だって。……何のスリルもない。こんな試合」
「応援しないと負けるぞ」
「しなくても負けるよ。先輩たち、最後の大会だっていうのに。今年も全国は無理、か」
「…………」
「ねぇ、手塚。ちょっと、抜け出さない?」
「ふざけるな。オレはこの後」
「君まで回ってこないよ。シングルス1に君がいるってさ。他校生はきっと、人数合わせだと思ってるんだろうね。そこまで行かずに勝つか負けるかするから、適当な人間をシングルス1に入れてるんだろうって」
「例えオレまで回ってこなかったとしても、だ。オーダー表に名前を書かれている以上、オレは今、応援として試合に参加しているんだ」
「その割には声、出てないけど?」
「それは……」
「苦手なんでしょ、そういうの。知ってるよ。僕だって、叫ぶのは苦手だし。でも、試合に参加してるっていうのなら、ちゃんと応援しないと駄目だよ? 苦手なんて言わない、言わない」
「……お前」
「だから、さ。応援なんてやめて。ねぇ。向こうのコートで少し打とうよ。竜崎先生にはさ、君まで回ってきた時のためのアップをしてくるって言っておくから。ね?」
「…………」
「だって、手塚。さっきからつまらなそうな顔してる。本当は分かってるんでしょう? 自分まで回ってこないって」
「……駄目だ」
「ねぇ、手塚」
「うるさい」
「じゃあ、行こう? そうしたらだま……え?」
「コート、入るか?」
「……ずるいな。君から出された手を、僕が解けるわけないじゃないか」
「なら、試合を見ていろ。その間なら、手を繋いでいてやる」
「……うん」
(2011/01/29)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送