837.噂を流す(蔵飛)
「止まれ」
「もう、バレちゃいましたか」
「わざとだろう? 貴様なら完璧に気配を消せるはずだ」
「妖気を抑えた状態では、百足の中に侵入できませんから」
「……何人殺した?」
「ゼロ」
「嘘を吐け。見張りがいたはずだ」
「眠ってもらってます。だから、誰も殺してません」
「何しに来た」
「あなたに会いに」
「俺は黄泉につく気はない。無論、ムクロにもだ」
「どうしてあなたが黄泉につかなければならないんですか?」
「じゃあ何故お前は……。お前は、黄泉の情夫になったのだろう?」
「情夫。なかなか面白い言葉を使いますね。いや、それは、オレの流した噂が、変形せずに広がっているという証拠、かな」
「噂、だと?」
「妖狐蔵馬は黄泉の情夫に成り下がった。そんな噂、耳にしたことありませんか?」
「事実だろう?」
「何か視たんですか?」
「誰が視るかっ!」
「でもあなたはその噂を信じた。オレって信用されてないんだな」
「……ふん。貴様を信じる奴がいるのなら、見てみたいもんだな」
「そっか。あなたは、信じてるんじゃなく、信じたいんでしたね」
「何?」
「噂を耳にすれば。怒って会いに来ると踏んでたんですけどね。いつになってもあなたはオレの前に現れなくて。だからこうして会いに来たんです。オレ自ら」
「…………」
「信じてませんね」
「当たり前だ」
「でも、出来ることなら、信じたい」
「ふん。貴様が誰の情夫になろうが俺の知ったことではない」
「じゃあどうしてオレに刃を?」
「侵入者は殺すだけだ」
「あなたはいつからムクロの支配下に?」
「…………」
「殺しても、いいんですよ? 今なら容易くオレを殺せるはずだ」
「…………」
「ごめん。少し意地悪が過ぎましたね。ねぇ、飛影。ムクロは放任主義みたいだけど、黄泉はなかなかしつこいんだ。オレがあそこを抜け出してくるのは、結構骨なんですよ」
「知るか」
「ああでもそうか」
「なんだ?」
「今のあなたじゃ、ここを抜け出してはこれても、黄泉の城に侵入することは難しい、か」
「……貴様」
「ましてや見つからないようにオレの部屋に来るなんて、無理ですよね。こうして……触れ合うことすら叶わないまま、あなたはきっと黄泉に捕らえられ殺されてしまう」
「死にたいか?」
「まさか」
「だったら消えろ」
「折角来たのに?」
「……あまり俺をなめるなよ」
「え?」
「あんな城……。お前の部屋など聞かずとも辿りつける」
「そう。じゃあ。……待ってますよ、飛影」
「ああ。……あ? おい。ふざけるな。どうして俺がお前のところに――」
(2011/06/05)
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