845.ゴーストタウン(はるみち)
 人の気配がしない街。ここにいた人々は死んでしまったのか、それとも、この結界の中が異空間になっているのか。後者であることを望みたいが、その場合、ギャラクシアを倒した後で僕たちが元の世界に戻ってこれる保証はない。
 いや、そもそも、僕たちが奴を倒せるかどうかすら怪しいが。
「はるか……」
 僕の本当の名を呼び、強く手を握りしめてくる。歩きづらいのも構わず、肩に頬を寄せてくる彼女に、視界に映らないと分かっていても笑顔を作った。
「不思議な感じだな。まるで、この世界に僕たち二人しかいないみたいだ。……だとしたら、ここは楽園なのかな」
 グローブ越しに感じる体温。寒くもないのに震えているのは、緊張か、恐怖か。少なくとも、武者震いではないだろう。
「楽園って、何だか淋しいのね」
「……そうかもしれないな」
 一年前の僕たちなら、これを楽園だと冗談でも喜べたかもしれない。だが今は。僕たちには家族がいる。二人きりになれる時間は減ったし、肝心なところで邪魔をされもするけれど、それでも彼女達のいない景色やはりどこか淋しいものがあることは否めない。
「こんなことさっさと終わらせて、僕たちの家へ帰ろう」
 楽園はきっと、現実の中で時折姿を現すから楽園だと思えるのだろう。二人きりでも飽きない自信はあるけれど、やはり刺激を感じ続けるには日常も必要だ。その日常も、紐解けば儚い幻ではあるのだけれど。
「そうね。早く終わらせて帰りましょう。私たちの、新しい日常に」
 顔を上げ、僕に微笑む。その目には哀しみが見て取れたけれど、気づかないフリをした。
 見上げた空は赤黒く、僕たちの行く先を照らすものは何も無い。
(2011/09/05)
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