848.背水の陣(蔵飛)
「もっと、死ぬことを怖がってください」
「そんなことをしたら、戦うことすら出来なくなるだろう」
「弱い人ならね」
「何?」
「死にたくなければ負けなければいい。それだけですよ。死ぬことが怖いから、戦いと正面から向き合って、勝つ」
「……ふん。随分と、青臭いことを言うんだな。それに、母親のために一度死を決意したヤツの言葉とは思えんが」
「オレだって命は惜しいですよ。だからこそ、人間に憑依してまで生き延びた」
「ならば何故、あの時」
「大切な人だから。価値のある物を渡す。そうじゃないですか?」
「さあな」
「それとも。そうだな。生き延びる理由でも与えれば、少しは恐怖心が沸いてくるのかな?」
「理由だと?」
「そう。少し前まで、雪菜ちゃんと泪涙石が理由だったように。別の新しい理由を」
「くだらん。大体どうしてそうまでして俺を生かしたがる?」
「死んで欲しくないからです」
「理由になっていない気がするが」
「そうですか? オレは、あなたのいない世界で生きていたくはない。けれど、命は惜しい。だからあなたには死んで欲しくない」
「勝手だな」
「ええ。これはオレの我侭です」
「俺がそれを聞き入れると思うか?」
「オレを愛しているのなら」
「……ふん」
「今はそう思わなくても。この先、死と向かい合った時。オレの顔が浮かんで、死にたくないと思うことを願ってます」
「勝手に言ってろ」
「飛影」
「しつこいぞ」
「もしあなたが死ぬことを厭わずに戦いに挑むのなら。オレはあなたを守りますよ。もしそれでオレが死ぬことになろうとも」
「……何だと?」
「あなたも、オレにとっては大切な人ですから」
「俺はお前に守られるほど弱くはない」
「じゃあオレに守られないで済むように、生きてください」
「…………」
「生きて、ください」
「……ちっ」
(2011/07/28)
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