859.華々しい破壊音(不二塚)
「手塚」
 瞬間的に赤く色づく頬。見つめ続けていると、その瞳は青く光り。近づいた唇は、オレに温もりを伝えた。
 遮られた視界。響き渡る破壊音はその先で、夜空に散る。
「好きだ」
 まだ余韻を残す夜空の花に顔を照らされたくなく、不二の肩に額を乗せる。
 もう少し、絶望的な色をしていると思った。常識や理性の崩れる音。それがこんなにも華々しく美しいものだとは。こんなことなら。
「もっと早く」
「何?」
 もっと早く、好きだと告げていればよかった。オレは今まで、何を怖れていたんだ。
「不二」
 顔をあげ、その瞳に映る花火を見つめる。頬に手を触れると、不二は嬉しそうに目を細めた。また唇が重なる。
「スキだよ」
 スキと繰り返す不二の顔が、急に真剣なものになる。誰しもが見惚れる、綺麗な顔。今までは目をそらせていたが、今日はそらさない。いや、そらすことが出来ない。
 無言のままで、見つめあう。静かだと思った。一つ隣の道には人が溢れ、頭上からは花火の散る音が降り注いでいるというのに。自分の鼓動が聞こえそうなほどに、静かだと。
「不二」
 ここままだと、不二にこの高鳴りを聴かれてしまいそうな気がして。渇いた喉で喘ぐように名前を呼ぶと、それを拒むように口を塞がれた。肩を掴んでいた手が滑り、オレの指先に絡まる。
「行こう」
「行く?」
「花火。折角僕たちを祝福してくれてるんだ。この目に焼き付けておかないと損でしょう?」
 微笑み、オレの手を優しく引く。頷く代わりに、腕が触れ合うほどに近づいて隣に並ぶ。見上げる不二に、上手く作れないと知りながら笑顔を見せる。
「ありがとう」
 呟いた不二も、微笑み返す。それからオレ達は添うようにして、雑踏へと向かった。
(2011/11/03)
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