875.意外な副作用(はるみち)
 薬を手に入れた。この胸の痛みを取り除くための薬を。
 ウエーブのかかっている髪に指を通し、緩いカーブを描いている唇に触れる。絡めあう舌に押しやられて流れ込んでくるそれを飲み込めば、僕の胸の痛みは和らいだ。
「はるか……」
 子供が縋りつくように。促されるまま彼女の胸に顔を埋め、早熟な匂いをかぐ。次第に混ざってくる汗のにおいに勘違いじゃない興奮を覚える。
 舌を這わせ、唾液といわず汗といわず彼女から分泌される総ての体液を飲み干していく。その効果は抜群で、彼女が体を波打たせ一際大きな声をあげるころには、僕の胸の痛みは何処かへと消え去っている。

「みちる」
 呼吸を整え、天井を呆然と見上げている彼女に呼びかける。反応は薄く、緩慢とした動きで僕を見る。けれど、僕と目を合わせると彼女は綺麗に微笑った。その表情に。峠を越えたはずの熱が、甦ってくる。
 もう始まったのか。彼女の髪を梳き、そのまま唇を寄せたくなる衝動を必死に押さえ込む。
 副作用。だと、僕は思っている。
 胸の痛みを消し去る代わりに、自分ではどうしようもない熱が体に宿る。それは、彼女を抱いて充たされるものではなく、抱けば抱くほどに悪化していく。
「どうしたの、はるか」
「……もう、寝よう。明日、早いんだろ?」
 平静を装い、彼女の頭を撫でるように一度だけ梳くと、僕は背中をシーツへと下ろした。見上げる天井。首筋に、彼女の呼吸を感じる。
「おやすみなさい、はるか」
「ああ。おやすみ」
 眠れるわけがない。毛布の中で指を絡めてくる彼女に内心で呟く。そして。
 胸の痛みと、体の熱と。一体どちらを消し去るべきなのか。答えの出しようのない問いを子守唄代わりに、僕は今夜も、無理矢理目を閉じる。
(2011/06/07)
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