883.ちっ、勘付かれたか・・・(蔵飛)
「ちっ」
 舌打ちをして、額にある目を閉じる。またか。呟いて、両目を開く。もう幾ら目を凝らしても、奴の姿は視えない。
 どうしていつも気付かれる。
 まさかこの距離で匂いが届いているというわけでもないだろうし。
 確かに邪眼を使うときは多少妖気を解放するが。だからと言って、目を合わせることなど、不可能だ。
 これが一度や二度なら、偶然奴が俺のほうを向き、それを目が合ったと勘違いしただけなのだとも言えるだろうが。確率としては偶然を越えたものがある。
 目が合わなかった時でも、後日奴の部屋に行けば、自分のことを見つめていただろうと指摘してくる。
 なんなんだ、一体。
 カラクリを聞けば、奴のことだから恐らくは愛の力だとかふざけたことを言うのだろう。
 イラつく奴だ。
 だが、奴には俺の行動を視ることは出来ないし、俺が視ていることに気付いたからと言ってそれを止めさせることは出来ない。
 そう、俺が優位であることには変わりはないんだ。それなのに。
 深呼吸をして空を仰ぐ。俺の視線に気付いた時の蔵馬は、優しく笑いかけるときもあれば、不敵に笑ってみせるときもある。ただ、どんな種類であれ笑顔には変わりがなく、その顔を向けられると俺はどうしても目をそらしてしまう。
「所詮は顔だけの奴だからな」
 わざと口にしたことで言い訳がましく響いてしまい、他に誰も聞いていないというのに俺は思わず舌打ちをした。そのことにまた、自己嫌悪に陥る。
 くだらない。
 今度は声にせず呟く。その瞬間、視界の向こうで奴が笑った気がして目を凝らしたが、今の俺には奴の姿など見えるはずもなく。
 気のせいかどうかを確かめるため、仕方がなく俺は蔵馬の部屋へと向かうことにした。
(2011/07/18)
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