887.記憶に沈む一枚の絵(ウラネプ)

 繰り返し見る夢。
 その光景を記憶の泉からすくい上げ、カンバスに重ねていく。
 波の音、潮の香り。白く小さな家ではあの人が微笑みながら手を振っている。まるで一枚の絵のように完璧で美しい世界。
 私はそれをカンバスに書き留めながら、幸福と恐怖を感じている。
 同じ夢を繰り返し視るということ。それは夢見の力が作用しているということ。
 つまりあの光景は、私たちの過去か未来である可能性が高い。
 過去であるなら。それはとても幸福な夢になる。前世でも私たちは結ばれていたのだと言えるのだから。
 けれど、それが未来なら。傍らにあの人はいつもいるけれど。どう視ても、あの世界は月世界のものではない。勿論、海王星や天王星とも違う。
 仮に別の星なのだとしたら、それは別の生である可能性が高い。つまり、私もあの人も、今の二人とは別人ということになる。
 来世でも結ばれる運命だなんて、そこにはいつも現世での死別が隠れていることくらい知っている。
 戦士である以上、死ぬことは怖くない。けれど。あの人を置いていくのは、置いていかれるのは、とても怖い。例え、その先にこの絵のような未来が待っていると分かっているのだとしても。
 溜息をつき、知らず強く握りしめていた絵筆を置く。まだ完成しない絵。恐怖はあるけれど、それでも私は描き続けることを決めている。
 あの人が隣にいる世界、美しいあの夢は。どんな感情を伴えど、私にとって、あの人がいるそれだけで。忘れてはならない記憶になってしまっているのだから……。

(2011/07/17)
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