893.人畜無害(外部ファミリー) ※982.ショコラの光沢の後日 |
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せつなとみちるが旅行に出かけるという。一泊二日だ。みちるからの、バレンタインのお返しらしい。 僕には何もないのかと訊けば、あなたからは何も貰っていないわ、と一言。 「なんだよ。甘い夜をあげただろ」 「セックスなんて、日常じゃない。 あからさまな言葉をしれっと言うみちるに閉口していると、キッチンカウンタから溜息が聞こえてきた。せつなが、頭を抱えている。 「せつなも、何か言ってくれよ」 「いいじゃありませんか。あなた方はいつも二人で出かけてるんですから。たまには私とみちるが二人きりになってもバチは当たりませんよ」 「そんなこというけど、だってこれは、言ってしまえばデートだぜ?」 「はるかさん。旅行中に、私とみちるの間に何かあると思っているのですか?」 「それは」 そしてまた、言葉に詰まる。 確かに、二人が旅行に出かけたからって、何か、それこそ甘い夜ってやつがやってくるとは思っていない。 けれど、だからって。何も今日にしなくてもいいじゃないか。 「そんなに心配しなくても大丈夫よ、はるか。せつなは貴女と違って、二人きりになったからって何かしてきたりはしないから」 せつなの肩を後ろから抱くように掴み楽しげに言うみちるに、せつなが間髪いれず、当たり前です、と呟く。 そんなせつなの姿に、だよな、と無理矢理胸を撫で下ろそうとしていると、せつなに触れているみちるの手が絡みつくように伸びていった。 「でも、せつなは何もしてこなくても、私が何かするかもしれないわね。だって、ちゃんとお礼はちゃんとしたいもの」 少しだけ背伸びをして、せつなの耳元で囁く。勿論、その目は僕を真っ直ぐに見つめているのだから、からかっているだけなのだとは分かるけれど。 「ちょっと、みちる!」 「いいじゃない、せつな。たまにはあなたとこんなことをしても。きっとバチは当たらなくってよ」 ふぅと耳元に息を吹きかけると、せつなの頬が朱に染まる。 「バチはあたらなくても、はるかがっ」 「そっか。せつなは人畜無害だけど、問題はみちるか」 だったら、僕にはもうどうすることも出来ないな。大袈裟に両手を広げ、降参のポーズをとる。二人に背を向けソファに座りなおすと、みちるの視線を後頭部に強く感じた。 「いってらっしゃい。ほら、早く行かないと、一泊二日なんてあっという間だぜ?」 振り返らずに言う。暫くして人の動く音がしたと思うと、視界の両隅から白い手が伸びてきた。 「怒っているの?」 「まさか」 抱きしめてくるみちるの手に自分のそれを重ね、数回撫でてから引き剥がす。振り返ると、拗ねた顔のみちるがいた。 「はるか」 「いっておいで。帰ってきたら、日常が待ってるから」 微笑みながら、みちるの頭を撫でる。そのまま顎を掴んでキスをしたい衝動に駆られたけれど、せつなの手前諦めた。みちる越しに、せつなを見つめる。しょうがないわね。そんな言葉が頭の中に響いてくる。 「いってらっしゃい」 「ええ。いってきます」 形勢逆転した僕はせつなと共犯者じみた微笑みを交わすと、余裕のなくなってしまったみちるの唇に自分の唇を押し当てた。 |
(2012/03/16) |
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