902.シャレにならないド素人(ウラネプ) |
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「何してるんだっ」 突然の怒鳴り声に、振り向く間もなく突き飛ばされた。私のいた場所を閃光が切り裂いてゆく。背後で聞こえる爆発音。遅れて前方でも醜い叫び声と爆発音が響いた。 「ったく。仮にも君は戦士なんだ。技を一発放ったくらいでバテてどうする」 目の前に差し出された綺麗な手。爆風で巻き起こる砂埃に目を細めながら辿っていくと、同じコスチュームに身を包んだ人が私を見つめていた。厳しい口調とは裏腹の、優しさに満ちた目で。 「ほら。まさか、立てないほどに外した技にエナジーを込めたわけじゃないだろ?」 強調するように目の前で手を振られ、視線を戻す。 女性にしては大きな手。私に差し出していない左手にはグローブが嵌められていて、また、そこには右手のグローブが握られていた。 まさか、このためにわざわざグローブを脱いだの? 「余計な、お世話だったかな」 いつまでも動きを見せない私に呟くと、彼女は手を下ろそうとするから。その手から完全に力が抜ける前に、私も同じようにグローブを取ると、その手に触れた。 「ありがとう。助けに来てくれて」 伝わってくる温もりは、この広大な星の中に一人残された私に、限りない安心感を与えてくれた。 「……同じ星の元に生まれた奴の顔を見てみたかっただけだ。そうしたら偶々」 「私のピンチだった?」 「そう。偶々君のピンチだったから、つい。立てるか?」 「ええ」 自力で立ち上がるつもりだったのに、繋いだ手に強く引かれた私は、勢い余ってそのまま彼女の胸の中へとよろけてしまった。 「ごめんなさい」 何故か顔が熱くなり、慌てて体を離す。 「そんなド素人みたいな戦い方じゃ、この先、生きていけないぜ?」 「そんなこと言われても、訓練も何も」 「僕だって同じさ。けど、僕たちには守護星がある。それを持って生まれた限り、戦士として護っていかなきゃならない。あの月を。……僕たちの、プリンセスを」 呟いて遥か彼方を見つめる彼女の横顔に、思わず繋いだままの手を強く握り返した。 「ああ、悪い」 気づいた彼女が、手を離す。別に、離して欲しくてそうしたわけじゃないのに。 だったら。一体何のために? 「兎に角。望もうが望むまいが、僕たちは戦士なんだ。戦い方を知らないから負けましたじゃ済まされない。ピンチになった時は僕を呼んでくれて構わないから」 それは誰に対する優しさなのかしら。思わず口をついて出そうになった言葉を、慌てて飲み込む。 「分かったわ」 代わりの言葉を吐き出し、なんとか微笑んで見せると今度は私から彼女へと手を差し伸べた。 「何?」 「ネプチューンよ。よろしく」 「……ウラヌスだ。天王星を守護に持っている。距離はあるが、必ず駆けつける」 強く、握り返してくる手。真っ直ぐに私を見つめる瞳の先に誰かの存在を感じ、また胸がざわめき出す。この感情の名前は、そのどちらも、存在だけなら私も知っていた。まさかそれが、自分にもあるとは思わなかったけれど。 「どうした? まさかまだ体力が戻らないのか?」 「違うわ。気づいてしまっただけよ」 「何に?」 「私が戦士として生きるために足りなかったもの」 何かを、誰かを護りたいという想い。 戦士でありながら、それも今日会ったばかりの相手に恋をするなんて。戦士としての緊張感が足りないと、この人なら叱るのかもしれないけれど。 仲間意識を勘違いしたわけでも、久しぶりに会った他人に安堵を覚えたからでもないと、はっきり言える。 「それは?」 「まだ出会ったばかりの貴女に、そこまでは教えられないわ」 「何だよ。……まぁ、いいさ。これからも、長い付き合いになりそうだし。いずれ話してもらうよ。僕にだって必要なものかもしれないし」 少しだけ砕けてきた口調が嬉しく、自然と口元が緩む。それでも、答えだけは零さずに。 「だったらいいわね」 その相手が私であれば、と。続く言葉を内心で呟くと、いつまでも離せずにいる手を、もう一度だけ強く握った。 |
(2005/01/25) |
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