906.アイデンティティー(蔵黄泉)
「お前は千里眼など持っていないだろう。無意味なことはやめたらどうだ」
「……お前こそ、目が見えないのだからオレの視線をいちいち気にするなんてこと、やめたらどうだ。気配で察するのは疲れるだろう?」
「気を遣わなくていい」
「使ってなどいない」
「そんなに気になるのか、あの子供が」
「飛影はお前が思っているほど幼くはない。若くはあるが」
「……愛して、いるのか?」
「ああ」
「本気か?」
「ああ」
「……どうして」
「さぁ。理由なんてないものが愛だろう」
「そうじゃない。お前は、俺の知っている蔵馬は。決して本心を口にしない。ましてや自分の弱味になるようなことなど、悟らせすらしなかったはずだ」
「そうだったかな」
「そうだ。幾ら追いかけてもつかめない。それが蔵馬だ。それなのに。今のお前は家族や、あの子供に囚われている」
「囚われている、か。確かに、そうかもしれない」
「お前は、誰だ」
「――オレは蔵馬だ」
「違う。お前は蔵馬じゃない」
「確かに、オレはお前の知っている妖狐蔵馬じゃない。だが、お前が見ていたオレは本来のオレだったと言えるか? オレはお前に本心を見せていなかったのだろう?」
「ぐっ」
「もう、オレに昔のオレを見るのはやめろ。人は変わる。いや、根本は変わっていないのかもしれないが」
「……根本が変わらないのなら。俺はお前に昔の蔵馬を見ることをやめたとしても、お前に対する想いは変わらないだろう」
「黄泉」
「オレはもう何百年もずっと、その想いを抱いて生きてきた。今となってはそれは欠かすことの出来ない俺の一部だ」
「一生、叶うことがなくても、か?」
「叶ってしまえば想いは変化してしまう。いや、消えてしまうかもしれない。だとするなら、俺はこのままで構わない」
「変態だな」
「それでこその俺だ」
「……好きにしろ」
(2012/04/05)
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