911.光と影(はるみち)
 光を、見つけた。貴女という光を。
 同時に、自分の中に闇が生まれた。貴女に照らされ形作られた影が、どうしても消せない闇を作ったの。

「僕はそんな大層な人間じゃない。買い被りだよ」
 貴女は私の光だと。そう告げた私に、彼女は言った。その表情は、嬉しさが3割、後ろめたさが7割といったところなのかもしれない。
 伏せようとする視線を追いかけ、彼女のうなじを掴む。見つめても笑みを返してくれないから、焦れた私は踵を浮かせた。触れる唇から伝わる温もりが、私の中にまた光を灯し。同時に、その影を色濃くしていく。
「好きよ、はるか」
 私を照らす光。それはまるで太陽のように。彼女が私を見ていなくても、傍に居るだけで光を浴びえることが出来る。
 そうして出来た影の名は、嫉妬。あるいは独占欲。
 自分がこんなにも誰かに固執する人間だとは思わなかった。ヴァイオリンや絵には人一倍の情熱を捧げてきたと思ってはいるけれど。その対象が人間に向かうなんて。
「知ってる。けど、君は知らないだろう? 僕が、海王みちるを、誰よりも愛してるって」
「……知ってるわ」
 知ってるけれど。嬉しさに比例するように不安もこみ上げてくる。もっともっと、貴女を独り占めしたい、と。そんな欲ばかりが色濃くなっていく。最早それは、光に作られた影ではなく、闇と呼べる程に。
「ちぇ。驚くと思ったんだけどな」
「ふふ。ばかね」
 不貞腐れたような顔をする彼女に笑い、もう一度唇を重ねる。私に応え舌を絡めてきた彼女は、そのまま私の体をソファへと倒した。
 迷いの消えた、真っ直ぐに私を見つめる目に、眩暈がする。
 この先、幾ら彼女が手を尽くしても、私の中に在る闇は消すことが出来ないだろう。それは予感ではなく、確信。
 でも、それでも構わないのかもしれない、と。彼女の与える刺激に眩しさを覚えながら、私はひとり、闇の中で微笑んだ。
(2011/06/11)
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