919.大注目! 犬も食わない大ケンカ(蔵飛)
 またか。
 倒された木々の真ん中で巻き起こる砂埃。見守るギャラリーの中に見知った顔をいくつか見つけ、互いに視線を交わしては苦笑いを浮かべあう。
 一部では夫婦喧嘩だと言われているらしい。
 オレと彼との関係を知っているならまだしも、魔界統一トーナメントの試合だけを観ていたら、誰だってそう思うだろう。それくらい、彼と彼女は近い距離にいる。
「何日くらいやってる?」
「まだ半日ほどです」
「じゃあ、まだまだかかるか」
 終わったら呼んでくれと見つけたムクロの側近に告げ、百足に向かう。彼のために用意された部屋に入り、彼の匂いのしみこみ始めているベッドへと体を横たえる。
 毎週のように派手に行われる喧嘩。何が原因なのかは分からないけれど、それは、魔界の自然を見事に破壊してくれる。その修復に、いつからかオレが呼ばれるようになった。
 どうしてオレなのかというと、まぁ、彼の保護者的立場にいるからだということらしい。
 だったらそれは彼女にも言えることだろうと思ったのだが、彼女に保護者などいるわけもなく、また部下の中に植物を扱えるものはいないということで、後片付けは総てオレが引き受けることになった。
 確かに、オレもあんな無残に倒された木々を見て放っておけるかといわれてしまえば、どうしようもないことなのだけれど。
 それにしても、あんなにもギャラリーがいるのに、誰一人として止めに入ろうとしないなんて。それもそうか夫婦喧嘩は犬も食わないというし、それに相手があの二人では、少し口を出しただけで瀕死どころか下手をしたら命がなくなってしまう。
 だからといって、こう毎週大量の妖気を使わされたのでは、オレだってまいる。
 それならいっそ、止めに入って華々しく散ってしまおうか。なんて。まさか、そんな馬鹿らしいこと出来るわけも無く。
「……ふん」
 彼の口調を真似して呟いてみては、数時間後に行わなければならない大仕事に備え、彼のベッドで静かに目を閉じた。
(2011/08/21)
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