937.大げさなリアクション(蔵飛)
 傷に触れたとき、いつもは我慢しきれなくても吐息ひとつしか漏らさない彼が、その日は大げさなほどの声を上げてオレを睨みつけた。驚きながらもよく見ると、額に脂汗が浮かんでいる。
 見た目よりも酷いのかもしれない。いや、もしかしたら毒、か。
 蔦を使い彼の両腕を頭上で束ね、ベッドへと寝かす。足も暴れないよう拘束し、駄目押しとばかりにその上に跨った。
 もう一度、左肩から右脇腹まで斜めに引かれた切り傷に触れる。優しく、撫でるように。
「あああああっ」
 声を抑えることを諦めたのか、彼は耳を覆いたくなるほどの声を上げた。それはまるでオレに襲いかかろうと吼える獣のようでもあった。
 獣。そうか。もしかしたら。
 彼が自ら脱いだ服を広げ、切られている部分の周囲に目を凝らす。そこには薄っすらとだが確かに、何かに引っかかれたような後があった。
 恐らくは敵の爪をギリギリで交わしたのだろう。だが、その敵は一本だけ長い爪を隠し持っていた。彼はそれで切られた。長く鋭い、毒爪で。
 この毒は、相手を獣人化させるものだ。それさえ分かれば、解毒は容易い。
「少し、待っていてくださいね」
 よく今まで獣人化しないで耐えたものだ。傷口の具合からすると、丸1日は経っているはずなのに。
 感心もそこそこに、解毒に必要な植物を成長させ、混ぜ合わせる。胸の傷にはいつもの止血剤を塗り、彼の口には解毒剤と眠り薬を混ぜたものを飲ませた。離した唇から、二人同時にため息が漏れる。
「蔵馬」
「寝てください。明日、会社休みますから」
「コレ、外せ」
「ああ、忘れてました」
 切れ切れの息で、縛られたままの手足を動かす。それだけ動けるのなら、睡眠剤は必要なかったかもしれないと苦笑しながら、彼の拘束を解いた。
 伸ばされた手が、オレの胸倉を掴む。
「動くと傷が開きますよ」
「すぐに寝る」
 強く引き寄せられ、唇が触れる。思えば少し前までの彼は、とても魅惑的な恰好をしていた。毒さえなければ怪我の治療もそこそこに襲っていたかもしれない。
「オレは、すぐに寝れそうにないなぁ。ねぇ、どうしてムクロの所じゃなくわざわざオレの所まで来たんです?」
 いつの間にか、胸倉を掴んでいた腕が落ちていた彼に向かって呟く。その瞼はもう閉じられ、部屋には穏やかな寝息が響いていた。
(2011/11/28)
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