939.大遭難(はるみち) |
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「随分と、悩んでるみたいだな」 「ええ。大遭難といったところかしら」 「珍しいな。君が、曲に対してこんなにも悩むなんて」 「……楽譜という道からはみ出さずに、真っ直ぐに進むこと。それがプロのヴァイオリニストになる一番の近道だと思っていたの」 「違うのかい?」 「勿論、そういう技術も必要よ。楽団の中でやっていくなら、楽譜や指揮者の指示から大幅にズレてしまうのはいけないわ」 「けど、君はその道から外れた」 「ソロコンサートですもの。もう少し、自分の色を出そうと思ったの。でも、見つからなくて」 「何が?」 「私というものが」 「成る程。で、それを探す旅に出たら、遭難してたってわけだ」 「何で笑うの?」 「どうしてかな。今、君が可愛く見えて仕方がないよ」 「何よそれ。人が真剣に悩んでいるのに」 「わるい。けど。……なぁ、みちる。今日はもう、それくらいにしないか?」 「駄目よ。明日までにこの曲だけでもイメージを掴みたいの」 「だったら尚更」 「どいういうこと?」 「僕が、君らしさを見つける手助けをしてあげるから」 「どうやって?」 「勿論、君の本能を引きずり出して」 「……バカ」 |
(2011/12/20) |
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