947.破壊神降臨(ウラみち)
 ベランダにいる私を、背後から優しく抱きしめてくる。おやすみと耳元で囁かれ、思わず、えっ、と声を漏らしてしまう。
「何だよ」
「今日は、随分早いのね」
「……疲れて、るんだ。すまない」
 歯切れの悪い返し。緩んだ腕に振り向いてみるけれど、既にはるかは私に背を向けていた。カラカラと小さな音を立て、後ろ手で窓が閉められる。
 振り返らないはるかの頭上に見える虚像の月。その姿が見えなくなってから空を振り返ると、満月が柔らかな光を放っていた。
 私たち戦士を包む、優しい月光。しかしそれが悲劇を生み出しているなんて、きっと私以外の誰も知らない。
「ネプチューン」
 月光と同じ程に優しく残酷な声。振り返らないでいると、後ろから抱きすくめられた。おはよう。耳元で囁かれ、眩暈がする。
「……今日は、随分と早いのね」
「アイツが早く眠ってくれたからな。お陰で、意識を奪うなんて余計な力を使わずに済んだ」
 感じる吐息が、耳元から首筋へと下がる。私を掴む手に自分のそれを重ねると、首筋を緩く噛まれた。
「必ず会えると、分かっていても。淋しいもんだな」
 思いがけない弱音。重ねた手は指を絡まるように深く繋がり、無理な体勢のまま唇が重なった。
「会いたかった」
「……ウラヌス」
 向かい合って見つめた瞳は、何処か孤独を思わせて。指先が、零れてもいない涙を拭ってしまう。
 そして。
「ネプチューン……」
 嗚呼。今夜もまた、理性が壊れて行く――。
(2011/09/12)
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