963.優しい手(蔵&雪)
 よろけた彼女を、思わず抱きかかえた。何が起こったのか瞬時には理解できなかったのだろう。一呼吸してから、彼女は慌てたように体を離した。
「雪菜ちゃん?」
 体は離したのに手に触れたままの彼女に呼びかける。視線を一度だけオレに向けたが、またすぐに手に戻してしまった。オレの右手を、両手で包むようにして撫でている。
 身長差のせいだろう。彼女の手とオレの手は、随分と大きさが違った。その差は彼とのものと同じに思えた。
「デジャビュかと思いました」
「え?」
「今の。前に一度、体験したことがあると」
「まさか」
 オレが彼女に触れたのはこれが初めてだ。彼の大切な人に、オレが触れられるわけが無い。
 暗黒武術会の時だって、幽助や桑原くんは彼女の治療を受けていたが、オレは自分で育てた薬草で傷を治していた。勿論、彼も。
「でも、私の勘違いでした。ただ、似ていたんです。こんなにも、違うのに」
「似てた? 桑原くんと?」
「……飛影、さんと」
「飛影と?」
「変、ですよね。背格好も雰囲気も違うのに。何故か似ていると思ってしまったんです」
「そう」
「……ごめんなさい」
「雪菜ちゃんが謝ることは。心当たりなら、ありますから」
 彼女の手からすり抜け、オレを指差して口をパクパクさせている桑原くんの隣を通り過ぎる。
 彼と似た体温が未だ残る手を見つめ、口元が緩んでいる自分に気づく。
「だとしたら、オレと雪菜ちゃんの手も似てることになるのかな。ねぇ?」
 遥か遠くから感じる刺すような視線に問いかけてみる。勿論、声なんて聞こえるはずもないのに。
 ふざけるな、と。オレの耳には彼のぶっきらぼうな声がしっかりと届いていた。
(2011/12/13)
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