964.コレクターズアイテム(蔵飛)
 遮光カーテンで窓を総て塞いである部屋。薄暗い室内を構わず進む彼に、手探りで明かりをつける。
「これは……」
 温度のない蛍光灯の光に照らされた壁の異様さに、先を行く彼の足が止まった。追いついたオレも、その先へと足を進める気が起きない。
 部屋の壁という壁には様々な色の髪の束が、一つ一つ額に入れられ、まるで虫の標本のように飾られていた。
「どうやら、お前が特別だったわけじゃないようだな」
「……そうですね」
 何故か嬉しそうな声に、気づかないフリで返す。
 戸愚呂チームの唯一の生き残りである武威に鴉が人間界で暮らしていた家の場所を聞いた。どうしてそんなことをしたのか、辿り着いた今もその理由が分からない。
「満足か?」
「元々不満なんて持っていませんよ」
「だったら何故」
「ここに来る前も言いましたけど、理由は分からないんです。でも、来てよかった」
「……よかった?」
「あれ、多分オレの髪です。コレクターは死んだとはいえ、こんなもの、いつまでも残しておくのも気持ち悪いですからね」
 他の額とは明らかに値段の違うそれの中に、たった一本だけ飾られた赤い髪。隣の額には、銀色に光る髪まである。オレだけが特別ではないと彼は安堵したようだったけれど、この飾り方はその言葉を覆すものだ。
「いつ」
「恐らくは、彼らの試合を見た日でしょう。あのとき、背後をとられましたから」
「のろまめ」
「そうですね」
 確かに、あの時のオレは奴より遥かに弱かった。武威に注意をそらされていなくとも、容易く背後をとられていただろう。
「……燃やすぞ」
 微かに怒気を含んだ声。嫉妬なのだろうかと前向きに考えてみる。とはいえ、他にこの部屋を燃やすためだけに黒龍を呼び出す理由が見当たらない。
 彼は、妖狐の存在に気付いたのだろうか。
「ねぇ、飛影」 「離れていろ」
「というか、部屋を出てから黒龍を放ってくれませんか?」
 今にも技を出そうとする彼の手を引き、部屋を出る。その間も彼は、憎らしげに壁に飾られたオレの髪を見つめ続けていた。
(2012/01/20)
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