968.偉人さんに連れられて(蔵飛)
「飛影」
「どうした?」
「半年、ぶり、ですね」
「ああ」
「…………」
「…………」
「…………」
「聞かないのか?」
「え?」
「どうして俺が、半年も姿を現さなかったのか」
「ああ。そう、ですね。何故ですか?」
「……魔界トンネルから離れた場所へと百足が移動した。そこには人間界へ抜けられるような小さな歪みもない」
「どうして」
「知らん。ムクロの気紛れだろう。元々百足は移動要塞だ。あの場所に長く留まっていた方が珍しかったんだ。次のトーナメントまでには会場近くに戻ってくるようだが、少なくともあと3年は移動し続けることになるらしい」
「移動した時、どうして」
「まさかそこまで離れるとは思ってもいなかったのもあるが。一言でいえば面倒だったんだ」
「百足を出るのが?」
「お前の所に通うことが、だ」
「……ああ」
「だからこのまま離れても構わないだろうと思った」
「じゃあ、どうして今? あなたの話し方だと、魔界トンネル近くに百足が戻ってきたわけではないのでしょう?」
「……百足の移動は二ヶ月足らずだったのに、俺の脚で魔界トンネルに辿り着くまで三ヶ月以上かかった」
「それで半年も」
「今も百足は移動を続けている。ムクロが気に入った場所で暫く足を止めたとしても、せいぜい3日だ」
「それじゃあ百足を探せなくなってしまうんじゃないですか? 幾らあなたには邪眼があるとはいっても、魔界は広い。それに、生まれ持ってのものじゃないわけですから、千里眼だって100パーセントの使いこなせているわけではない」
「トーナメントまでには戻ってくるとムクロは言っていた。その頃になったら魔界へ戻ればいい。別に、百足の部屋に何か残してきているわけでもないしな」
「それって、つまりは」
「問題は運動不足だ。毎日とは言わんが、週に一度くらいは、手合わせしてくれるんだろうな?」
「……飛影」
「無理なら魔界へ」
「行かないで。相手、しますから。だから、人間界に、いてください」
「人間界でいいのか?」
「……オレの、ところに?」
「他に行けというのなら」
「言いませんよ。言うわけ、ないじゃないですか。分かってるくせに」
「ふん」
「……何だか、今日のあなたは意地が悪いですね」
「仕返しだ」
「何の?」
「お前はこの半年間……。いや、なんでもない」
「……?」
(2012/03/04)
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