977.燃え尽き症候群(蔵飛)
「黄泉とは、何もなかったと言っていただろう」
「あの時はね」
「何故、気が変わった?」
「……燃え尽きるのが怖かったから、かな」
「何?」
「仕事一筋で生きてきた人間はね、定年退職すると無気力になるんですよ。燃え尽きちゃうんでしょうね」
「何の話だ?」
「だから。オレもあなた一筋なのは辞めようかなって」
「誰が一筋だ」
「一筋ですよ。オレが妖狐の頃、誰にも熱を上げませんでしたから」
「アイツがいるだろう?」
「アイツ」
「……黒、鵺」
「ああ。黒鵺。黒鵺、ね。彼はそういうのとは違いますから。プラトニックでも良かったんですけどね。関係を持ったのは成り行きです」
「尚更悪いだろう」
「何がです?」
「別に」
「まぁだから、燃え尽きることがないように、時々は余所見をすることにしたんです」
「……くだらんな」
「そう思うのなら、怒らないでください」
「誰が怒ってなど」
「じゃあ、この刀は何なんです? さっきから、オレの首筋、冷たいんですけど」
「心配するな。刃は返してある」
「……成る程」
「何だ?」
「あなたが、心配になってきました」
「何?」
「あまりにも、オレ一筋だから。燃え尽きても知りませんよ?」
「ふざけるな。誰が」
「ああでも、そうか。火種がなくならないようにすれば。オレもあなたも、燃え尽きる心配はありませんね」
「……一生言ってろ」
(2012/01/10)
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送