「何だか、あっけなかったな」
 呟きながら、海堂の背中を押す。
 氷帝のあの二人を切欠に、俺たちも試合後、柔軟だけでもすることにした。ランニングもすべきなのだろうが、残りの試合を見ないわけにも行かないし。だからと言って、別に他のメンバーを信頼していないわけではないのだが。試合は、データをとるいい機会だから。
「それだけおれらのレベルが上がったってことっすよ」
 前屈の姿勢のままだから、声がくぐもる。
 海堂はなんとも思わないのだろうか?
「だが…これでお前とのダブルスは終わりだ。淋しくなるが、約束は約束だからな」
 手を離し、溜息混じりに言う。海堂の言葉を期待して暫く見つめていたが、海堂は何も言ってこなかった。それどころか、足に顔をつけたまま、体制を戻そうとしない。
「……海堂?」
「…………別に、そんな約束…」
「ん?」
 何かを呟いた海堂に訊き返す。だが、海堂は何も言わず勢い良く体を起こすと、立ち上がった。俺の後ろに回り、背中に手を当てる。
「交代っす」
「……ああ。悪いな」
 そのまま暫く、無言で柔軟をした。言いかけた海堂の言葉は気になったが、無理に聞き出そうとすればするほど答えないのを俺は知っている。だから今は、海堂のほうから口を開くのを待つしかない。
「…そろそろ、戻るか」
 海堂の手が止まったので、俺は言った。と、突然、背中にかかる負荷。
「か、海堂?」
 振り向くと、すぐ隣に海堂の顔があり、感じる重さと温もりから、俺は今抱きしめられているのだと知った。
「別に。あんな約束、律儀に守らなくてもいいっすよ」
 体が悲鳴を上げるんじゃないかと思うほどの力で、抱きしめてくる。抗議しようかとも思ったが、抱きしめるのはいつも俺の役目で。こんなことはこの先もうないかもしれないと思ったので、俺は開きかけた口を閉じた。
「それに、試合に勝てたってことは、相性は悪くないってことじゃないっすか」
「初戦は負けたがな」
「だが、次は勝った。レベルは確実に上がっている。このまま行けば、大石先輩たちにも負けないくらいの戦力になれるかもしれねぇ」
 腕を解き俺の隣に座ると、俺の眼をじっと見つめてきた。俺は苦笑すると、海堂の頭を軽く叩いた。
「それは、飛躍しすぎだな」
「飛躍しすぎじゃねぇっすよ」
 少し、ムキになって言い返してくる。その真面目さに、俺は微笑った。途端、海堂の頬が赤くなる。
「……でも、そんなことはどうでもいいんすよ」
 呟くと、海堂は探るように、俺の手に自分のそれを重ねてきた。しっかりと、俺を見つめる。
「おれは、アンタと一緒にテニスをしたいんすよ」
 耳まで真っ赤にして言うと、海堂は俺の手を強く握った。





積極的な海堂。
個人戦もいいけど、乾海ダブルスはもっとやって欲しい。



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