「変だと思いません?」
 前を向いたままで、オレは少し声を張り上げた。
「何が?」
 聞こえないだろうと思ったからなのか、先輩はオレを強く抱きしめてきた。少しだけ体が強張って…。それに気づいたのか、先輩はオレの背に頬を当てたままでクスクスと微笑った。思わず、溜息が出ちまう。
「だから。何でオレが漕いでんすか?」
 目的地に到着。ゆっくりとスピードを落とす。先輩が降りたのを確認すると、オレも自転車を降りた。まだ少し頬が赤いのが解かったけど、ま、それは風を切って走っていたせいに出来ると思う。
「だってこれ、桃の自転車でしょ?」
 オレの頬を指差し、赤いよ、と微笑う。その手を掴むと、自分のポケットにしまった。先輩は、暫くポケットにしまわれた手を不思議そうに見つめていたが、オレの顔を覗き込むようにしてみると、クスリと微笑った。ポケットの中の指を絡めるように強く握る。
「それに、僕の後ろ、乗りたいの?」
「………。」
 その言葉に、オレは思わずまじまじと先輩を見ちまった。いくら天才と言われてるからつっても、それはテニスでの話で。オレと先輩との体格差はかなりのものがある。こんな先輩が、オレを後ろに乗せて自転車を漕ぐ?
「なんか、危なっかしいっすね。いいっすよ。これからもオレがアッシーやります」
 溜息混じりに言う。その後で。なんだか急に可笑しくなり、オレは笑ってしまった。
「?どうしたの?」
「いやぁ、不二先輩が自転車漕ぐのって似合わねぇっすなって思って」
 妙な敬語が体に染み付いてるから、変な言葉遣いになる。そのことについて何か言われるかとも思ったけど、先輩はただ優しい笑みを浮かべているだけだった。
「僕だって、自転車くらいは乗るよ。まだ免許が取れる年齢でもないしね」
 言いながら、自転車のカギを閉める。オレはカゴからテニスバッグを取ると、カギを受け取るべく、先輩の方へと手を出した。その手を、握られる。
「………不二先輩?」
「そんなに言うなら、帰り、僕が乗せてってあげるよ。サドル下げなきゃだけどね」
 空いている手に持っているカギをオレの目の前でぷらぷらさせたあと、先輩はそれを自分のポケットへとしまった。唖然としているオレの手を引くようにして先を歩く。
「………い、いいっすよ。オレが漕ぎますから」
 我に返ったオレは、慌てて先輩の横に並ぶと言った。先輩は含んだような笑みをオレに見せ、首を横に振る。
「いいんだよ。そうでもしないと、桃のほうから抱きしめてくれないでしょ?」
「――へ?」
「そういうこと」
 満足げに呟くと、先輩はオレの腕に頬を寄せてきた。ふと見た窓に映ったオレの顔は、これ以上にないくらい真っ赤だった。





なんだかんだ言って、もう3話目。(だよね?)
自転車を小道具に使う場合、相手は桃城しか浮かばないよね。



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