「つまんにゃーい」
 気の抜けるような声と共に、英二は僕にボールを返した。
「ちゃんとやりなよ」
 戒めも兼ねて、足元にスマッシュを打つ。
「あわわ」
 急に変化した球速に、英二はだらしなくよろけた。フェンスに、ボールがぶつかる。
「不二のバカァ」
 悪態を吐きながら、ボールを拾いにいく。その後ろ姿に、僕は溜息を吐いた。宙を仰ぎ、眼を瞑る。髪を撫でる風。いつもなら心地いいと感じるのに、今は淋しさを煽るだけだ。
「スキありっ」
 その声と共に、ボールが飛んできた。僕は英二に笑みを見せると、そのボールを左手で受け取った。
 つまらなそうに、英二が舌打ちをする。僕はある言葉を思い出したので、言ってみることにした。
「まだまだだね。」
 無論、彼の口調と生意気な眼を真似することも忘れない。
「あーっ、ムカつくっ。もうヤメ。休憩っ」
 クスクスと微笑う僕に、降参とでも言うように両手を広げて言うと、英二は早々にベンチに腰を下ろしてしまった。
 詰まらなくなったのは僕の方。相手がいないんじゃ、テニスは出来ない。いや…やろうと思えばやれるんだけど。壁相手よりは、ニンゲン相手の方が全然良い。例えそれが、やる気ゼロのニンゲンでも。
「英二。まだ練習は始まったばっかりだよ?そんなんじゃ、スミレちゃんから大目玉食らうからね」
「いいもーん。大目玉つっても、どうせ走らされるだけだし。俺、体力無いから丁度良いし」
 完全に拗ねてしまった英二は、だらしなくベンチにも垂れ、宙を仰いでいる。こうなってしまうと、なかなか手がつけられない。
 僕は溜息を吐くと、英二の隣に座った。同じようにして、宙を仰ぐ。
 手塚のいない生活は、何かに夢中にならないとやってられない。気を抜くと、すぐに寂しさに襲われてしまう。いつもなら、こうしてサボっていると、手塚が僕らを叱りに来るのに。
 『何か』としてテニスを選んだのが間違いだったのかな?でも、これは手塚と僕を繋ぐ、大事な線だし。だから、こんな所で負けるわけにはいかないんだよね。彼にも、全国で待ってる、なんて言っちゃったし。
 だけど、このままじゃ…。
 もう一度溜息を吐くと、僕は横目で英二を見た。宙を仰ぐような格好で眼を瞑っている英二は、今にも寝てしまいそうだった。
 こういう時、普段は名前すら浮かばないニンゲンの存在を凄いと思う。英二を、ちゃんとコントロールしてるんだから。…ちゃんと、かどうかは疑わしいけど。英二、ベタ惚れだからな。
 それにしても。必要なときにいないなんて。ま、病院に行ってるんじゃ仕方ないか。
 ……そうだ。
「あんまり、サボってると腕鈍るよ?」
 僕は立ち上がると、英二に向かって言った。
「…にゃ?」
 本当に眠っていたらしい。英二は大きな欠伸と伸びをすると、僕を見上げた。依然として、やる気はゼロみたいだ。
 ……仕方ない。あまり気は進まないけど。
「大石を失望させちゃ駄目だよ」
 言うと、僕は英二の手を取り、無理やりに立たせた。置きっぱなしになってたラケットを、英二に渡す。
「僕は大石の代わりとして英二とダブルスを組むんだ。この意味、解かるよね?」
「………うん」
「じゃあ、ちゃんと練習しよう?大石は今練習が出来ないわけだし。彼が戻ってきた時、支えてあげられるのはパートナーの英二だけなんだよ?」
「………うん」
 まるで幼稚園の先生と園児だ。英二はラケットを両手で握り締めたまま、僕の言葉に俯きぎみに頷いている。
 その姿に、僕は笑みを浮かべると英二の頭を優しく撫でた。英二が、何かを言いたそうな顔で僕を見つめる。
「ん?」
「不二……ごめん。…ありがと」
 呟くようにして、言う。僕は苦笑すると、首を横に振った。
「いいよ。僕も英二の気持ちが解からないわけじゃないからね」
 大好きなヒトが傍にいないときの無気力感ってのは、僕だって感じてるから。それは言わずに僕は英二に背を向けた。自分のコートへと戻る。
 振り返ると、英二もコートに立っていた。やる気を取り戻したその眼に、僕は気付かれないように薄っすらと笑みを浮かべた。大丈夫。僕らは勝てる。まだ、テニスは出来る。
 深呼吸をし、ボールを構える。
「英二、行くよ」
「うしっ!」





不二と菊丸のコンビは好き。
でも、あくまでも不二塚、大菊(菊大)前提。
友情以外の何もない。



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