「君と僕はチームメイトだ。それ以上でも、それ以下でもない」
 はっきりと、不二はそう言った。その眼には、多少の嫌悪が混ざっているように思える。
「…そうか。すまない。今言ったことは忘れてくれ」
 自分が酷く情けない顔をしているような気がして。オレは俯きながら言った。
 沈黙。
 どうにかして、この場から去りたいのだが、切欠が見つからない。いや、本当は切欠など必要なくて。このまま何か変化が起こってくれることを心のの何処かで期待しているのかもしれない。
 不二に断られたことで、自分が曖昧になってきている。不二への気持ちは本物なのに、はっきりと断られてしまったことで、行き先が宙に浮いてしまっている。
 オレはこのまま、不二のことを想い続けていてもいいのだろうか?
「……話は、済んだんだよね?」
 断った時とは違う、気を使うような口調。嫌悪はもう感じ取れない。だが、オレは不二の顔を、その眼を見ることが出来なくて。俯いたまま、小さく頷いた。
「じゃあ、帰っても良いかな?それとも、一緒に帰る?」
 思いがけない不二の言葉に、オレは顔を上げた。見ると、不二は形容のし難い眼で、オレを見詰めていた。
「いいのか?」
「君が、嫌じゃなければね」
 苦笑しながら、答える。
 どうしていいのか、理解らない。
 そのまま黙って不二を見ていると、溜息を吐かれた。不二が、自分のテニスバッグを肩にかける。
 ああ、帰ってしまうのだな。そう思った。だが、不二はオレの予想とは違う行動を取った。
「早くしないと、大石が鍵を閉めに来るから」
 言うと、不二はオレのテニスバッグを手に取った。無理やりにオレにそれを持たせ、そのまま、腕を引いて部室を出た。
 そのまま、暫く無言で歩いた。視線を落とすと、不二はまだオレの手を握っていた。それに気付き、急に顔が熱くなる。
「ふ、不二」
「ん?」
「………手。」
「あ。ああ。ゴメン」
 オレを見上げ、苦笑する。そのあとで。オレの手からは温もりが消えた。風の通り抜ける左手が、少しだけ寂しい。もう少し温もりを感じていても良かったのではないかと、今更後悔に襲われる。
 そんなこと、思う権利は無いのだが。
「……少し、驚いたよ」
 冷たくなり始めている手を見詰めているオレに、不二は呟くように言った。視線を向けると、不二はもうオレを見ていなく。前だけをじっと見詰めていた。
「何がだ?」
「君が、僕を好きだなんて」
 オレよりも半歩だけ前を歩く。その所為で、どんな表情をしているか読み取れない。オレは、小さく溜息を吐いた。
「すまない。」
「何で謝るの?」
 うな垂れたオレの顔を覗き込むように、不二は振り返った。急に足を止めるから、ぶつかりそうになる。
「謝るようなことなの?」
 見つめるオレに、また、訊いてくる。オレは何も答えられず、眼を逸らした。溜息が、聴こえる。
「僕が驚いたって言ったのは、君がそう言った感情を持ち合わせていたことだよ。てっきり、テニスにしか興味が無いと思ってたから」
 視線を戻すと、不二はまたオレの少し前を歩き出していた。慌てて、オレも隣に並ぶ。
「……オレにだって、感情はある」
「そうだよね。ごめんね」
 何に対しての謝罪なのか。不二は呟くようにして、言った。視線は相変わらず、遠くを見たままだ。
「……何故、一緒に帰るなどと…」
 不二が相変わらずオレを見ないので、オレも前を向いたまま訊いた。隣りで、不二が苦笑いを浮かべてたのが解かった。
「何でだろうね。解かんないけど。何となく、あのまま別れたんじゃ、今まで通りにはなれないと思ったから」
「…今まで、通り?」
「そう。チームメイトという関係。君の言う好きとは種類が違うけど」
 言葉を切る。不二を見つめると、不二もオレを見ていた。
「僕も、君のことが好きだから」
 ふ、と微笑う。それは今まで見てきたものよりも、切ないもので。オレは思わず眼を逸らしてしまった。今の顔を見られたくなくて。無言のまま、不二の前歩く。
「………都合、良すぎるか。君の告白を断ったくせに、今まで通りでいたいなんて」
 オレの行動を拒否と受け取ったのだろう。不二は寂しそうに呟いた。足を止め、不二が追いつくのを待つ。
「…手塚?」
「お前が、そうすることを許してくれるなら。オレは構わない」
 オレの言葉に、不二の口から、安堵の溜息のようなものが漏れる。オレは深呼吸をすると、見上げる不二の眼を見詰めた。
「ただ…」
「ただ?」
「叶わなくてもいい。だから、これからもお前のことを好きでいても良いか?」
「………君が、そうしたいなら」
 暫くの沈黙のあと呟いた不二は、哀しげな笑みを浮かべていた。




やっと載せられた。これ書いたの、随分前なんだけどね。まあ色々在ってタイミングを逃してました。
そして倖せじゃなくてごめんね。裏設定は色々在るのだけれど。書いていると長くなるので。
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