「よう、不二」
 前触れもなく僕の目の前に現れた彼は、馴れ馴れしく片手をあげて挨拶をしてきた。
「……跡部。残念だったね。折角手塚に勝ったのに、結果的には負けだなんて」
 できる限り、突き放すような言い方をしてみる。いくら真剣勝負だと言っても、それを受けたのが手塚の意思だと言っても、彼を許せるほど、僕のココロは広くない。
「まあいいさ。俺様は無二の試合を勝利で飾れたわけだからな」
 僕を見て、ニヤリと笑う。僕は溜息を吐くと彼から眼を逸らした。この男が僕に何の用があるのかは解からないが、これ以上言葉を交わしたくはない。それに、この先で手塚が待ってる。
「悪いけど、僕はもう行く――」
「そんなことより」
 横をすり抜けようとした僕の腕をしっかりと掴むと、自分へと向けた。
「……何?」
「随分と熱心に俺のこと見てたじゃねぇか」
「は?」
 訊き返す僕に、彼の口元が吊り上る。彼の手が緩んだので、僕は腕を振り解いた。
「他の試合なんて、どうでもいいような顔してたくせに。俺様の試合だけはしっかりと観てたじゃねぇか。ええ?」
 何を言いたいのか。自信ありげな彼の言葉に、僕は溜息を吐いた。
 僕が見てたのは、君じゃなくて手塚なんだけど。
「お前ぇは顔立ちも綺麗だし、何なら、相手してやってもいいぜ?ただし、遊びだがな」
 クツクツと笑う。だから何なんだ、この男は。プライドが高いのは知ってたけど。なんだかなぁ。
 同じプライドでも、こうも違うとは。まあ、その思考回路にはちょっと興味深いものがあるな。僕の周りではこういった人種はいないし。跡部個人には興味がないとしても。ちょっと遊んでみるくらいなら、別に構わないかな。
「今日、うちに来ねぇか?何なら今からでもいいぜ。爺やに送らせる」
 僕が黙っているのを何と受け取ったのかは知らないが、彼は1人で話を進める気らしい。
「ねぇ」
 再び僕の手を掴み、今度は連れ出そうとする彼を止める。
「……何だ?」
「それって、僕が君を見下してもいいってことなのかな?」
「は?」
 僕の言葉に、今度は彼が変な声を上げた。意味が分からない、という眼で、僕を見つめる。そっか、不意打ちには弱いんだ。
「僕、今ストレス溜まってるんだよね」
 手塚とのこととか、まぁ色々と。芥川との試合は、ストレス解消にならなかったし。
「それに、試合でも大して疲れてないから。優しく出来ないけど。いい?」
 依然として変わらない彼の表情に、クスリと微笑う。背後に、愛しい気配。
「………」
 俯いて、僕の言葉の意味を理解しようとする彼。そして、後ろからは、聞き慣れた足音。
「不二。それは、まさか…」
 跡部が顔を上げるのと、彼が僕の手を取るのが、ほぼ同時だった。
「うん」
 僕は跡部に向かって笑みを作ると、その手を強く引いた。爪先立ちになり、彼にキスをする。跡部に見せつけるように、深く、長いものを。
「……不二。遅いぞ」
 唇を離した彼は、少し赤い顔で、僕から眼を逸らすようにして呟いた。掴んでいた腕を離し、代わりに指を絡める。変だな。いつもなら、ヒトが居なくても屋外でのキスは拒むのに。
「………何だ?」
「ううん。ごめんね」
 無理をしているその顔に、僕は微笑った。彼の顔がさらに赤くなり、眉間の皺も深くなる。
 彼は咳払いを1つすると、いつまでもニヤついてる僕を窘めるように睨んだ。
「さっさと帰るぞ。……今日は、うちに泊まっていくのだろう?」
「……うん」
 そういうことになってたなんて、初耳だけど。まあ、いいか。
「でもいいの?肩、大丈夫?疲れてない?」
「……加減、してくれるんだろう?」
 予想以上の言葉の連続に、僕の顔まで赤くなる。
「……………うん」
 大分遅れて頷くと、僕は彼の手を強く握り返した。そうと決まれば、彼の気が変わる前に戻れない所まで進んでおかないと…。
「おい、待てよ」
 背後から、良い雰囲気の僕たちを邪魔する声。その場を去ろうとする僕たちの前に回りこむと、跡部は彼を睨んだ。
 全く。あれだけ見せ付けられたのに、退かないの?負けを認めないのは、プライドの高さ故なのだろうか。
「不二はこれから俺様の家へ行くんだ。勝手に連れて行くな」
 繋がってる僕たちの指を、何とか引き離そうとする。その姿は、結構見っとも無い。そういう所は気にならないのかな?潔く諦める方が、僕は格好良いと思うんだけど。
「……不二。それは本当か?」
「知らない」
 必死で指を解こうとする跡部をそのままに、彼が訊いてきた。当然、僕は頭を振る。
「おいおい。嘘を吐くなよ。試合中俺様ばっか見てたじゃねぇか。興味あるんだろ?」
「僕が見てたのは、君じゃなくて手塚だよ」
 どこまでも自信ありげな言い方に、僕は溜息を吐きながら答えた。僕たちの手を掴んでいるその手を、突き放す。
「まぁ、その思考回路に興味がないわけじゃないけどね。ただ、君自身には興味はないよ」
「なっ……」
「そんなわけだから。もう2度と僕の前には現れないでね。手塚の肩をこんなにした君を許せるほど、僕の心は広くないから。今度逢ったら、もしかしたら、殺しちゃうかもしれないよ?」
 口を開けたまま僕を見ている彼に、口元だけを歪めて微笑う。彼は口を閉じると、ほんの少し、後退りした。
 ……この程度で怖気づいてるんじゃ、僕とはやっていけないよ。
「だそうだ。跡部。悪いが、オレは急いでいるんでな。もう用は済んだだろう?」
「あ、ああ。好きにしろ」
 彼の言葉に、救われたかのような表情をすると跡部は頷いた。情けないその姿に、思わず吹き出しそうになる。
「不二」
「ん?」
「帰るぞ」
「うん」
 何とか吹き出すのは堪えられたものの。振り返るその一瞬、眼があった跡部に、僕は小さく嘲笑ってしまった。だって、負けが顔全体に現れていたから。
 それにしても…。
「……ねぇ、手塚」
「何だ?」
「君って、プライド高いって言うより、意地っ張りなんだね」
「……ヤキモチ焼きだと、言って欲しいな」
「――――え?」





不二跡も…不二塚の餌食に(笑)
どうしてこう…前提モノが増えてしまうのでしょうね?
不二くんは、手塚が肩を壊してまで勝とうとしたことを良いとは思ってません。
「真剣勝負とはこういうものだよ」…歯軋りが聞こえてきそうでした。
どうでもいいけど(?)、これはお題に合った話になってる?

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